第22話

「どこに行く?」


 森川さんとオフィス街をフラフラ歩く。


 森川さん──


 二つ上の先輩。

 この人のプライベートのことは全く知らない。


 仕事では冷静沈着で無駄がない。

 言うべきことはちゃんと言う。

 理想的な社員だ。

 私の上司も森川さんにはなかなか言い返せない。


「森川さんって結婚してるんですか?」


 うっかり聞いてしまった。

 地雷かもしれない……。


「結婚してないよ。彼女もいない」

「え!意外です」

「川崎さんがあんな若い子と結婚する方が意外だよ」


 ハイソノトオリデスネ……。


「もっと早く動けばよかった」

「はい?」

「いや、なんでもない」


 森川さんが言ったことが車のクラクションのせいであまり聞こえなかった。


「あ、俺行きたい飲み屋あるんだ。そこでもいい?」

「はい!大丈夫ですよ」


 森川さんが向かった店は──

 私と勇凛くんが婚姻届を書いた場所。


 うわーーー。


「あの、やっぱり別のところに──」


 森川さんは暖簾をくぐってしまった。


 あーーー!


 私は身を潜めて森川さんに隠れながら店に入った。

 店長と奥さんが見える。

 まずい。

 案内された席で、メニュー表で顔を隠していた。


「……どうした?」

「いえ、おきになさらず……」


 お願い、なんとか、バレませんように……!


 その時、奥さんが料理を持ってきた。


「あら、この前婚姻届持ってきた人じゃない!!」


 ───オワタ


「あんたー!来たよあの子!」


 店長が出てきた。


「お?」

「婚姻届の子」

「え、何?なんかあったの?」


 森川さんが驚いてる。


「おー!あの子は元気か?あのかっこいい兄ちゃん」

「はい……おかげさまで」

「無事に夫婦になれた?」


 奥さんは悪気なく普通に聞いてくる。


「はい」


 店長と奥さんは嬉しそうだ。


「また一緒においで」

「はい、今度連れてきます」


 二人は店の厨房に戻った。


「婚姻届ってなんのこと?」


 森川さんが興味津々に聞いてくる。

 もうここまできたら、嘘も誤魔化しも効かない。

 森川さんは勇凛くんを知ってる。


「実は──」


 私は森川さんに真実を話した。


「告白された次の日に入籍?」


 森川さんが今まで見たことないような顔で、やや戸惑っている。


「はい。酔った勢いで……」


 森川さんは天井を見ている。


「婚姻届持ってきたんだ。あの子」

「はい。びっくりしました」


 机の上の料理を森川さんは食べている。


「それは俺にはできねーわ」

「そ、そうですよね」

「出す時も嫌がらなかったんだろ?」

「困ってたとは思います」

「……でも本気だよな。あの子」

「はい。入籍してすぐに、私を妻として扱ってくれています」


 勇凛くんのことを思い出して、胸が温かくなった。


「あんな若いのにすごいなー。いくつ?」

「二十二歳ですね……」

「まじか」


 森川さんはただただ驚いていた。

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