第21話

「厄介ってのは……?」

『会ってみればわかると思います。俺は七海さんと兄たちを会わせたくないです』


 不安すぎる!でも逃げていても仕方がない。

 夫婦としてやっていくにはこの試練を乗り越えねば……。


「わかった。お兄さんたちに挨拶と必要な事だけ話そうと思う」

『……兄に連絡しておきます。それより』


 それより?


『俺たちの住む家を探したいです』


 あ。そうだ、後回しにしていた。


「そうだね。じゃあ今度物件見に行こうか」

『はい。早く一緒に暮らしたいです』


 一緒に暮らす──

 毎日一緒。仕事以外。

 この距離でも私の胸は騒いでるのに、一緒に住むとか、過呼吸起こすんじゃないか?


「じゃあ、そろそろお風呂入るから切るね」

『……七海さん』

「ん?」

『好きです』


 そのあとすぐに通話が切られてしまった。


 悶える私。

 なんで私が好きなのかさっぱりわからない。

 ただ、勇凛くんを大切にしたい。

 そんな気持ちが宿っている。


 ***


 ──翌日


 私は上司と面談している。

 結婚の報告をするためである。


「先日結婚しまして、そのご報告です」


 上司は顔色一つ変えない。


「そうか。おめでとう」


 人の心がないんか!

 その後すぐに人事へ。


「え!川崎さん結婚したの!?」

「はい。必要なものが知りたく」

「え~おめでとう!これに書いてあるもの持ってきて~!」


 リストを渡された。


「相手どんな人?」


 人事の先輩は興味津々である。


「優しくて誠実な人です……」


 言って恥ずかしくなった。


「どんな仕事してるの??」


 なんでこんなに聞いてくるんだ!


「フリーランスです」


 適当に答えた。


 そのあと自分の部署に向かう途中、森川さんに会った。


「あ、川崎──今はなんだっけ?」

「旧姓のままでいいですよ」

「いやーびっくりした」

「え?」

「いつの間にか結婚してて」

「私もびっくりしてます」

「なんで?」

「初めて会った次の日に結婚──」


 あ、まずい口を滑らせそうになった。


「え?どういうこと?」

「あ、なんでもないです!」


 森川さんは腕を組みながら、何かを考えている。


「あの子見た事あるんだよね」

「え!」

「前飲み会の時にいたような気がするんだよ」


 あー!やばい!


「勘違いですよ。全然違いますよ」

「今日あの居酒屋行ってみようかな」


 やばいやばいやばい。

 今日勇凛くんバイトの日じゃん!!

 どうしよう。


「あ、あの、今日一緒に別の所に食べに行きませんか!?」


 咄嗟に回避しようとした。

 が……。

 森川さんとサシでご飯?


「いいけど。なんで?」

「森川さんと話してみたかったんです~」


 自分でどんどんドツボにはまっていく。

 とりあえず勇凛くんバレ回避すればいいんだ。


 て、まだ隠そうとしている自分を脳内で殴っていた。


「わかった。じゃあ、川崎さんのおごりね」


 げ。

 まぁ仕方ない。私が言いだしたことだ。


「わかりました!ありがとうございます!」


 森川さんとご飯行くことになってしまった……。

 勇凛くんにバレたらヤバい。

 ああ、バカなの私??

 その後、ずっとそのことを考えてモヤモヤしていた。


 ***


 今日も無事に帰らせてもらえた。

 安堵してビルを出ると、森川さんが立っていた。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 いったい何を話せばいいかわからないけど、適当に話して乗り切ればいいんだ!

 と甘い考えでいた。

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