第10話

 こんなに誰かに求められたことなんて今までなかった。

 なんとなく付き合って、なんとなく別れて、そんなのばかりだった。

 社会人になってからは恋愛はしていない。


 本気で恋をしたことがない。

 だから、勇凛くんの真剣さが、胸に響く。

 頭では否定してるのに、心は嘘をつけない。


 ただ、好きかというと、それはわからない。


「勇凛くん、ありがとう。真剣に私との未来考えてくれて」


 プロポーズすることも、結婚することも、凄く勇気がいることだ。私もちゃんと答えないと。


「勇凛くん、時間もらってもいいかな。私も真剣に考えたいから」

「はい。待ちます」


 勇凛君は穏やかな顔で頷いた。


 そのあと、私と勇凛くんは人生ゲームを最後までやった。


 順風満帆な勇凛くんは、大量に資産を保有したままゴールした。

 私は借金まみれだった。


「勇凛くんって、くじ運とかよかったりする……?」

「そうですね……当たる方だとは思います」


 二人で人生ゲームを片付けた。


 わざわざ私のために買ってきてくれた。

 出会って数日の私に──


「勇凛くんはなんで私と結婚したいの?私の事ほとんど知らないのに」

「初めて七海さんを見た時は、いいなって思っただけでした。でも、その帰りに七海さんとまた会った時に、運命だって思ったんです」


 運命。

 私にはよくわからない。


「でも恋がしたいんだよね?そう言ってたよね?」

「はい。結婚してからでも恋はできると思います」


 順番は間違っている。

 でも、そんな恋の形もあるんだろうか。


「すみません。今日バイトで、夜まで一緒にいられないんです」


 俯く勇凛くん。


「うん。大丈夫だよ。ありがとう。側にいてくれて」

「妻が入院してるんだから当たり前ですよ」

「……そうだね」


 そのあと、今度はクロスワードの雑誌を買ってきてくれて、一緒に解いていた。

 暖かい時間だった。


「じゃあ、そろそろ行きます。これは邪魔だと思うので持って帰ります」


 紙袋に入った人生ゲーム。


「退院したらまたやろうか」


 勇凛くんの瞳が輝いた。


「はい!」


 優しい笑顔の勇凛くん。

 エレベーターの前で見送った。


 自分の心の中に、芽生えている気持ち。

 それを大切にしたいと思った。

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