第9話

「結婚しました」

「おめでとう!」


 勇凛くんはピンクのピンを立てる。


「これは七海さん」


 勇凛くんはサラッと言う。

 顔が熱くなる。


 私が回す。


「一回休み……」


 勇凛くんと私の距離は開くばかりだった。


 勇凛くんが次に止まったマス。


「家を買います」


 勇凛くんは一軒家を選んだ。


「こういうところで七海さんと暮らしたいです」


 暮らす──

 そんなことを考える余裕は今の私にはない。

 この現実もまだ受け止められてない。


 次に私がコマを進める。


「駐車違反で罰金……」


 運の悪さに打ちひしがれていた。


 勇凛くんの番。


「子供が産まれました」

「あ、おめでとう」

「双子です」

「じゃあお祝い二万ドル」


 勇凛くんに渡した。


「俺、子どもたくさん欲しいです」


 穏やかな顔で言う勇凛くん。


 人生ゲームで現実をどんどん突きつけられる。


「あの……勇凛くん、私もう三十だからさ。そんなに期待しないで」


 子供を産むことまで考えられない!

 というか、私たちはこの前出会ったばかりで、まずお互いを知ることからで……。


 それにまだ私は明日に賭けている。

 勇凛くんに話そう。


「勇凛くん」

「はい」

「ちょっと考えない?」

「何をですか?」

「私また役所に明日行って、婚姻届取り下げられないか聞こうと思って。」


 勇凛くんの表情が固まる。


「七海さんはやめたいんですね」


 俯く。


「私が酔った勢いで提出しちゃって、私が悪いの。勇凛くんが嫌とかいうわけじゃないの。事故みたいなのが嫌なの」

「婚姻届を持ってきたのは俺ですよ」

「でも……」

「俺は飲んでませんでした。俺はシラフであの時、真剣な気持ちで提出しましたよ」


 胸が痛んだ。


「でも七海さんが嫌なら、いいですよ、取り消してください」


 暫く重い沈黙が流れた。


「私自信ないんだ。毎日残業だし、私のこと知ったら勇凛くん幻滅するよ」


 お一人様が当たり前。

 人に迷惑をかけない人生。

 プライベートまで人に気を使う余裕がない。


「いつも通りの七海さんでいいです。七海さんに迷惑かけません。家のことは俺が全部します」


 勇凛くんが私の手をとった。


「俺と結婚してください」


 勇凛くんの瞳は今まで一番まっすぐに輝いていた。


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