第11話

 ──夢を見ている


 あれは勇凛くんと待ち合わせした日、入った居酒屋。

 私と勇凛くんはカウンター席で話している。

 私はほろ酔い。


「七海さん、これ」


(その紙は……婚姻届)


「え、本気なの?」

「はい。本気です」


 私は梅酒を飲み干した。


「君すごいね。こんな事するなんて」

「信じてもらえないと思ったんです」


 勇凛くんがじっと私を見ている。


「そうか。じゃあ書くよ」

「え?」


 勇凛くんが驚いている。


 私はバックからボールペンを出した。

 私はスラスラ書いている。


「え、七海さん本気ですか?」

「結婚する気があるなら問題なくない?」


(何言ってるんだこの女)

 私は夢の中で自分につっこんでいた。


「はい……。でも本当に俺でいいんですか?」

「うん。君真面目そうだし。私真面目な人と結婚したい」


(根拠なんて何もないのに)


「真面目な人間かはわかりませんが、俺は真剣に考えてます」

「うん、それならいいよ」


(いや、それだけじゃダメでしょ!?)

(学生だよ!?)


「え、ここ何書くの?」

「証人……みたいですね」

「何それ」


 勇凛くんは調べている。


「『新郎新婦の双方が自らの意思で結婚することを第三者が証明するため、偽装結婚や一方的な提出を防ぐ目的』って書いてあります」

「そうなんだ。じゃあお店の人に書いてもらおうか」

「え!?」

「何?」

「いつ出すつもりなんですか?」

「今日だけど」

「もうこんな時間ですよ」

「夜間でも受け付けてるんでしょ」


 そんなこと覚えている自分に腹が立つ。


「そうなんですね。知らなかったです。でも俺七海さんのご両親に何も言ってないですよ」

「大丈夫大丈夫。どうせ三十路だし」


(待って、勇凛くんの親のことは!?)


「店長、書いてください」


 私は店長を呼び出している。


「え、俺が書くの?」

「はい。ダメですか?」

「うーん。めでたいことだからね……うちの店で結婚した客がいるってのは、いいね」


(待って、そんな赤の他人に書いてもらうとか!店長断ってよ!)


 奥から初老の女性が出てきた。


「どうしたんですか?」

「この二人結婚するんだってよ」

「まあ、おめでとう」

「あ、ここに書いてくれます?」

「え?私が?」

「はい、二人書かないといけないんです」

「私たちでいいの?」

「はい」


 その女性も書いた。


「じゃあ持って行きます」


 私は店を出ようとしている。


「七海さん待ってください!お金払ってないですよ!」

「あの子酔ってるの?シラフだと思ってたわ」


 勇凛くんはお金を払っている。


「お幸せに!」


 二人に言われた。

 それから私たちは夜道を歩いている。


「七海さん、本当にこれでいいんですか?」

「うん」

「……わかりました。」


 暫く歩いた先にある役所。

 その前に立つ。


「七海さん」

「うん?」


 振り向くと、勇凛くんが真剣な表情をしている。


「俺、頑張ります」

「うん」


 バカすぎる自分。

 真剣な勇凛くん。


 ───目が覚めた。


「責任……とらなきゃ」


 私は覚悟を決めた。

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