第8話


「あまり変わってないですね。もう一日様子を見ましょう」


 医師から告げられた。


 どうしよう……月曜の仕事……。

 医師がいなくなった後、途方に暮れていた。


 すると、スマホに通知がきた。

 勇凛くんからだった。


『体調どうですか?』


 勇凛くんに伝えなきゃ。

 私は電話スペースで勇凛くんに電話した。


『はい』


 勇凛くんの澄んだ声。


「おはよう。もう一日入院になったんだ」

『そうですか……。じゃあ今日も行きます』

「来なくても大丈夫だよ。私一人でも平気だから」

『俺が行きたいんです』


 胸がぎゅっとなった。


「わかった。勇凛くんの好きなタイミングで来ていいよ」

『はい、じゃあ急いで準備します。待っててください』


 勇凛くんと電話を切った後、淡い幸福感が湧き上がってきた。


 こんな気持ちを感じたのはいつぶりだろう。

 もう二度と訪れないと思った感情に戸惑うばかりだった。


 ***


 昼食を食べ終わった後、ぼーっと窓の外を見ていた。

 誰かが病室に入ってきた。


「七海さん、俺です。入っていいですか?」


 勇凛くんだ。


「うん、大丈夫だよ」


 カーテンを開けた勇凛くん。


「あ、顔色昨日よりよくなってますね。安心しました。」


 優しく微笑む。

 一晩経って見る勇凛くんは、若さが溢れて眩しかった。


 何か大きな紙袋を持っている。


「何それ?」

「人生ゲームです」

「……え?」

「俺とただ一緒にいるのは退屈だと思ったので、一緒に遊べるものがあればいいなと」

「もしかして、買ってきたの?」


 勇凛くんは頷いた。


「トイランドで買ってきました。」


 優しい……。

 でも、なぜ人生ゲーム?

 病室で遊ぶにはデカすぎる!


「勇凛くん、せっかく買ってきてくて悪いんだけど、ここじゃ狭いから難しいかな……」

「デイルームの方でやってもいいと言われました」


 聞いてきてたのか!


「うん、わかった。じゃあやろう」

「はい!」


 勇凛くんとデイルームに移動した。

 デイルームは閑散としていた。

 そこに勇凛くんが買ってきた人生ゲームを広げる。


「懐かしい。昔家族でやってたな」

「七海さんは兄弟いるんですか?」

「姉がいるよ。勇凛くんは?」

「兄が二人います」

「へー勇凛くんのお兄さんたち、気になるなぁ。見てみたい。かっこいいんだろうな」


 勇凛くんの手が止まった。


「兄の方が気になりますか?」


 寂しげな瞳。


「いや、兄弟だから似てるのかなって。特に深い意味はないよ」

「よかったです」


 優しく微笑む。


 勇凛くんは、黄色のコマを取った。

 私は白いコマ。

 スタート地点に2人で置く。


「七海さんからどうぞ」

「いや、勝負はフェアでいこう」


 私と勇凛くんは、それぞれルーレットを回した。

 大きい数の方が先に出発。


「俺が先ですね。じゃあお先に」


 勇凛くんはコマを進めてマスに置いた。


「落とし物を拾って一万ドル……」


 勇凛くんの資産が増える。


「じゃあ次私ね」


 コマを進めてマスに止まる。


「……え、スタートに戻る!?」


 私は振り出しに。

 勇凛くんが回す。


「警察官になりました」

「勇凛くんに向いてる!」

「本当ですか?」

「うん、正義感強そうだし」

「そんなことないですよ。でも嬉しいです」


 少し照れた顔に、また母性本能がくすぐられる。


 私がコマを回す。


「銀行員……」

「七海さんに向いてると思います。しっかりしてそうなので」

「いや、そんなことないよ……」


 仕事のことを思い出した。

 退院したらあの生活が戻ってくる。


「七海さんはどんな仕事してるんですか?」

「システムエンジニアだよ」

「かっこいいですね」

「そうでもないよ。不具合の修正が多いし」


 次に勇凛くんがコマを進める。

 あるマスで止まる。

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