第4話

 私が叫んだら、勇凛くんもびっくりして起き上がった。


「なんでなんでなんで!?」


 私は混乱していた。


「落ち着いてください。昨日七海さんは酔い潰れて、仕方なく家に連れてきたんです」


 最悪だ。


「ごめんなさい……」


 項垂れる私を見ると、勇凛君は立ち上がった。


「コーヒー飲みますか?」

「はい……」


 申し訳なくて目を合わせられない。


 勇凛君はドリップコーヒーを淹れてくれた。

 マグカップがテーブルに置かれる。


「ありがとう」


 コーヒーのいい香りが漂う。

 私はコーヒーを少し飲んだ後、ふと現実に戻った。


「え、今何時?」


 見渡すと時計があった。


 ──8時


「やばい!!」


 また叫んでしまった。


「どうしよう!遅刻だ……」

「七海さん、今日土曜日ですよ」

「え?」


 勇凛くんがスマホからカレンダーを見せてくれた。


「あ、本当だ……よかった……」


 安心して、空気が抜けた風船のようになった。


「七海さん、あの、昨日のこと覚えていますか?」

「え?」

「覚えてないんですね……」


 勇凛くんは困っている。


「え、何があったの?」

「昨日、飲み屋にいる時に、俺、婚姻届を七海さんに渡したんです」


 ──え?


「婚姻届!?なんで??」


 頭の中は大混乱だった。

 全く覚えていない。


「結婚することを前提に、なら考えてくれると言ってたので……。俺の本気を見せました」


 嫌な予感がした。


「それ今どこにあるの……?」

「七海さんが書いて、そのまま役所に一緒に行ったんです」


 まさか……。


「何度か意思確認したんですけど、そのまま七海さん婚姻届出しちゃったんです」


 血の気が引いた。


「え、つまりそれは……」


 勇凛くんが少し恥ずかしそうにしている。


「俺たち、夫婦になったんです」


 あまりの衝撃的な事実に、そのまま気を失ってしまった。


 勇凛くんの私の名前を呼ぶ声が聞こえた──


 ***


 ──目が覚めたら、今度は真っ白な天井。


 周囲がカーテンで仕切られている。

 腕には点滴針が刺さっている。


「ここって……」


 その時カーテンが開いた。


「あ!七海さん、目覚めてよかったです!」


 勇凛くんが飲み物を持っている。


「え、私病院に運ばれたの?」


 勇凛くんは頷いた。


「声をかけても反応がなくて救急車呼びました」


 勇凛くんは真剣な顔で私を見ている。


「無事でよかったです」


 その真っ直ぐな視線に射抜かれてしまう。


「ありがとう」


 恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。


 暫くすると、またカーテンが開いた。


「あ、川崎さん、起きられたんですね」


 看護師だった。


「最近すごく忙しかったんじゃないですか?。血液検査の結果をみると、やっぱりちょっと過労の影響が出ていますよ。」


 血液検査の紙を渡された。


「具体的には白血球が少し増えていて、体がストレスを感じているサインです。それから肝臓の数値もちょっと高め。無理が続くと血糖値や脂質も乱れやすくなるので、これからは少し休むことも大事ですよ。」


「はい……」


 仕事で身体に支障が出まくりだった。


 その後、今度は白衣を着た男性が来た。


「川崎さん、今日は経過観察のために入院してください」

「え!!」


 明日退院できるの!?


「月曜から仕事があるんです!」

「川崎さん、自分の体調を一番に考えてください。健康はお金では買えませんよ?」


 看護師が優しく言う。


 まさかこんなことになるなんて──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る