第2話
目の前には覆面男が5人。
手にはそれぞれ大きさの違う銃を持つが、先には大きい筒のようなものが取り付けられていた。
これは———
「サプレッサー……?」
武器商人であった父に、昔見せてもらったことがあるものだ。
みると男たちは先ほど叫び声をあげた女性の髪をこれでもかと引っ張り上げ
「その男のようになりたくなかったら黙ってろッ」
と耳元で威圧している。
「なに、これ……」
「お嬢様———」
「え、———ぁ?!」
ピスティは私を自分の背中に隠した。
彼女の目線の先には、先ほどの女性———ではなく、綺麗な真っ赤な水溜まりに沈む男性だ。
「これって強盗……?」
「そのようですね。
退路は私が確保します。お嬢様は私について———」
そう言いかけた時だった。
「おい!お前」
「へ?」
お前……?
え、誰?呼ばれてますよぉ?
手を上げなきゃ強盗さんに迷惑ではありませんか!全くもうぉ……
「もしかしてぇ……わわ、私……ですか?」
周りをキョロキョロしても我がメイド以外は伏せており、彼の目線を私を捉えていた。
用があるのはどうやら私のようだ。
「そのお前の持つ卵を渡してもらおうか」
「……ここここれ、欲しいの?」
「ああ」
「じゃあ」
渡そうと手を伸ばした瞬間
「いけません!」
ピスティに押されよろめく。
「なにすんの———ッ!?」
私が立っていた場所には先ほどはなかった綺麗な丸い穴が開いていた。
焦げるような刺激臭が男の手元から立ちこめる。
「な、なんで……」
「お嬢様先ほどの続きです。
私が退路を確保します。
お嬢様はついてきてくださいッ!!」
そういうとスカートに隠していたサブマシンガンを二丁取り出し、強盗たちに撃ち始めるピスティ。
「ちょちょちょッ!!!」
次々に落ちる空薬莢。
奔るマズルフラッシュは壊れたネオンのようだった。
「手で頭をかばってなるべく姿勢は低くッ!!」
彼女の精確な射撃は、二人の男の眉間を貫いた。
倒れた男の右側に玄関までのスペースが生まれる。
「このッ、アマッ!!」
「今です走ってッ!!」
こうなったら一直線に走るしかない!
恐いから目も耳も閉じておこう。
「こっちだ!!」
「へ?」
外に飛び出た時、軍用自動車から男性が私を呼び。
「だ、だれ??」
「お嬢様いいから乗ってッ!」
そして押し込まれこの場を後にする。
「いやぁ危なかったね」
先ほど助けてくれた茶髪の男性が、ミラー越しにこちらをみて笑っている。
「い、いったい……」
「僕はケルネレ。盗掘家だよ」
「え……それ泥棒じゃ」
「ま、まぁね。でも僕は君のお父さんと一緒に仕事をしていて」
「パパの?!」
「う、うん。それで———」
私が前のめりに話を聞こうとした時だった。
突然の衝撃と浮遊感。
あれ……? ピスティ、なんで逆立ちしてるの?
違う。
私や車が天地反対なんだ。
襲う熱風とソニックブーム。
そして爆裂する車。
話の途中だってのにマナーのなっていないことだ。
「みんな……」
車が横転している。
タイヤの燃える匂いがする。
何か爆薬での攻撃を受けたようだ。
「僕は……なんとか無事だよ」
「おじょう、さま……ご無事で」
強い衝撃と共に皆沿道の草むらに飛ばされていた。
皆今すぐは動けなさそうだが無事だ。
這い出て顔を上げると
「よう。さっきはやってくれたなオジョウサマッ」
私を撃った強盗のリーダー格の男だ。
「お嬢様……その卵をもって逃げて……」
「!? ピ、ピスティを置いてなんて……それにこんなおもちゃ———」
「———おもちゃではありません。
それは世界を救う聖なる卵です」
聖なる卵?
金属製で綺麗だとは思うが、なんの変哲もない。
「その卵を渡してもらおうか」
「わ、渡したら……わ、私たちはどうなるの……?」
「そうだなぁまずは皆で楽しんでやるよ。二人とも上玉だからな、調子が良さそうなら海外に売り飛ばすかダメそうなら……」
一拍間を空く。
そしていやらしく口角を上げ
「そのまま殺す」
その言葉を聞いたとき、私の中で何かがパキッと音を立てた。
ちょうど何か膜のようなものが割れる音。
「私たちを?」
「そうだ」
「させない……」
「ハッ。お前の許可なんているか。
おいッ足を撃ち抜け——————ッ!!!」
男が引き金を引こうとした時だった。
『——————“我が魔道は世界を救い、我が魔道は世界を冒す。
我は滅尽者にして救済者。我を求むなら殻を破りてそう願え。
全ての理不尽を穿て、我が銘はルクス・ミティス“——————』
誰かの声が聞こえた。
自分の中から聞こえたような、この星全体が囁くような。
そして一瞬の視界の揺れ。
呻き声がして振り返るとなぜか強盗が地面に倒れていた。
それをみて大慌てで他のやつらも私に銃口を向ける。
しかし、結果は同じだ。
向けたものから地面に伏していく。
ん?なんだろ、これ?
みんな眠ったのだろうか。それほどに静かだ。
隣では焚火のように車が燃えている。
静まったこの場所には、黒い靄が立ち込めている。
いや流れがある。河のようだ。
紫黒のミルキーウェーブの中心に私はいる。
その源流は、私が持つ卵から漂っていた。
それを最後に私の記憶は途絶えた。
次の更新予定
聖卵のエルピス 『うつろといしはら』 @uturo3
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