聖卵のエルピス
『うつろといしはら』
第1話
窓の方から小鳥のさえずりが聞こえる。
ツガイだろうか?仲が良さげだ。
目をゆっくりと開く。
季節は春。本日の日和は晴れ。
カーテンの隙間から入る温かな日差しが、私を優しく起こしてくれる。
「ふっ。今日も穏やかな一日がはじま」
「「ウゥ———ッ!ウゥ———ッ!」」
サイレンです。パトカーの……
「ま、まぁこんなことも」
「「ズガガガッ!!ガガガッ!!」」
機関銃です。大口径の……
なるほどなるほど。
「……うん。もっかい寝よ」
こういう日もある……よね?
最近はここら辺も治安が悪い。
現実を忘れ虚ろな世界へ逃避しようと布団に再度潜り込むと
「エルピスお嬢様、おはようございます
あ、それとお誕生日おめでとうございます」
無遠慮にメイドが声をかけてきた。
「そんな雑にお祝いしないで。私はもう一度寝るの」
「学校にいく時間ですお嬢様」
「ピスティ。何年私が引きこもってると思ってるの?
それによく考て。
私が登校した所で誰が喜ぶの?どうせ誰のためにも何もできないし虫けら扱いされ
るだけだよ。
あ、私と比べられたら虫さんが可哀そうか、ふへへ」
「そんなでは旦那様も悲しまれますよ?」
「……」
父を亡くしたのはもう3年になるだろうか。
元々学校にも馴染めず自信なんて皆無な人間だったのに、父の死を防ぐことが
できなかったことで自己肯定感の低さに拍車がかかっていた。
「はぁ。お嬢様、その手首のミサンガ。
込めた願いを忘れたわけではありませんよね?
あなたを絶望が襲う時、その闇雲を晴らす希望の光になりますようにと」
「……わかってるってば。パパが死んだ時にくれたこともね。
じゃあねぇ———これが切れたら登校してあげる!その頃には私も誰かの希望に
なってることだろうし!」
「なら今すぐどこかの角でこすってきてください」
「い、いやだよ!そんなロマンのないこと」
「……そうですか。登校したくないなら今日は出かけましょう」
「出かける?最近治安最悪だしやめた方が」
「今日でなければならないのです」
「へ?なんで?」
それから私はこの不愛想なメイドに連れられて銀行を訪れた。
「こんな場所になんの……あ!やめなよぉ強盗なんてぇ~」
「……そんなわけないでしょ。あとでお尻を叩きます」
彼女の目をみてください。本気のようです。
「じょ、冗談じゃん冗談!硬いなぁ~ピスティくんは!あはは……」
彼女のお尻叩きは本物だ。
企業秘密だって話してしまうだろう。
あとでもう一度深く謝ろう。
「お待たせ致しました。こちらでお間違いございませんね?」
「はい。ありがとうございます」
「……? これは?」
見たところ白の卵型の金属と手紙のようだ。
「これは旦那様からです」
「え?!パパから?!」
「はい。あなたの誕生日に渡すようにと」
今日じゃなきゃダメって……
目線を手紙に移す。
中には
『卵は二つ、金と黒。希望と裏切りの卵。
全ては卵に隠されている。
世界を救いたいなら殻を割りなさいエルピス』
「二つって一つじゃん。しかも白だしこれ。
それに殻を割れ?これ金属製だよね?どうやって」
「あ、それは——————」
彼女が説明をはじめようとした時だった。
「ん?」
後ろで何かガスが筒から漏れたような音と
「が、ぁ——————ッ」
誰かの小さな不意にでたような声。
「キャアアアアッ!!」
そして劈くような女性の絶叫。
「お˝い!お前ら動くなァッ!!」
振り返ったそこには、覆面をした大柄な男5人が銃を客に向かって構えていた。
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