童貞用心棒翔太の冒険

YOUTHCAKE

無理難題

『翔太?お願いがあるの!私、30にもなって、夜の街を出歩いたことが無いの!?信じられないと思わない?だって、家族に隠れてコッソリ見てるバラエティ番組では、あんなに色んな一般の方々が様々な夜を楽しんでいるのによ?私は、いつも日のあるうちしか外に出ないじゃない!?しかも、それは仕事か習い事か、息抜きのお買い物だけ。どうしたものかしら!あたしったら夜を知らないの!!まるで、世間知らずよ!』と真理乃は言った。


『それは、ご家族様のご心配があってのことでございます。真理乃様の身に何かあってはと、ご両人のご希望通り安全に全面的に配慮した結果、そのように門限と移動制限が掛けられているのです。ご家族のご希望は、夜は魔が潜むとの仰せです。外を無暗に出歩かせるわけにはまいりません。』と翔太は言った。


『お父様もお母さまも、私の身を案じすぎなのよ!私は大して大それた美人でもないのによ!どうして?なぜそうも国宝を扱うが如く丁重に取り扱うの?私にはわからない!なんてこと!』と真理乃は言った。


『お言葉ですが、真理乃様。あなた様のご尊顔は、この世の者とは思えないほど美しく、まるで極楽浄土の天女のよう。夜の街にあなた様が現れますと、この世の男どもは皆血相を変えあなたに襲い掛かるでしょう。そうなってしまいますと、私の手に負えません。』と翔太は言った。


そう、翔太の言い分は冗談でもお世辞でもない。この社長令嬢、世界三大美女、クレオパトラ・楊貴妃・小野小町よりも凄絶に身眼麗しい、一般人が彼女を目にするや否や脳内に虞美人如来がきらめき、その猛烈に豪奢な美しさに眩暈と吐き気を催すほどの美人である。


増してや、暗がりの魔気に魅せられて夜を歩く、血気盛んな男どもが彼女を網膜に入れてしまうと最後、彼らはその姿の傀儡となり、彼女の意図せぬところで彼らを蜘蛛の糸に捉えてしまい、逃げても逃げても追いかけられ、しまいには心中しようとする男もおるであろうほどの見事さだ。


『またそんな滑稽な嘘をおっしゃい。あなたは私を買いかぶりすぎよ。どうかしてるわ。』と真理乃は言う。そう、彼女は困ったことに、美人である自覚がないのである。だからか、彼女に友人はいない。

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