序章:三人の魔女②

 コーディリアは生まれつき、太ももから下が動かなかった。立ち上がることも、歩くこともできない。成長しても筋肉の薄い足は、ただただ重たく邪魔な存在でしかなかった。

 偉大なるブリテン王の三男として生を受けたにも関わらず、勇猛に剣を振るうことも、王の補佐として執務をこなすこともできない。

 年齢を重ねても変わらない。彼はこの世で何よりも、自分の両足を嫌っている。

 コーディリアは目の前の長机に並んだ料理を無表情で見下ろした。スープから立ち上る湯気が、鼻先に香りを運んでくる。本来ならば食欲をそそるはずのそれも、今は何も感じない。

 斜向かいに座る兄の顔が、ろうそくの火にゆらゆらと照らされて歪んで見えた。沈黙の支配する空間に、金属同士の擦れ合う音と咀嚼音だけが響いている。

 彼らを繋いでいるものはただ一つ、ブリテン王リアの息子であるというだけだ。

 不意に、扉が開かれた。

「遅れてすまないね、コーディリア」

 長く伸ばした赤色の髪を揺らして現れたのは、コーディリアたち三兄弟の待ち望んだ存在だった。

「父上」

 ゴネリルとリーガン、二人の兄が椅子から立ち上がって出迎える。それはコーディリアにはできないことだ。コーディリアは内心の苛立ちを抑えきれず、兄たちから目を逸らすように父の方を見た。

 僅かに強張ったコーディリアの表情に気付いているのか、リアはにっこりと微笑んだ。

「可愛いコーディリア、十五歳までよく生きてきた。誕生日を迎えたお前に、贈り物があるのだよ」

「贈り物……というと」

 コーディリアが首を傾げる。リアは細長い布の包みを抱えていた。

「足だよ」

 リアは長机の端に、それを置いた。丁寧な仕草ではあったが、ゴトリという重みのある音はよく響いた。

「お前のために誂えた、黒檀の義足だ」

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黒檀の足のコーディリア くろこ(LR) @kuroko_LR

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