黒檀の足のコーディリア

くろこ(LR)

序章:三人の魔女①

 返り血で染めたような、深紅の長い髪を揺らし、男は道を歩く。黒い棘を光らせる大振りの薔薇が、頭を垂れて男の歩みを見つめている。ぬかるみが男の靴を汚し、着衣の裾まで跳ねてこびり付く。

 暗い雨の降る夜だった。人の寄り付かないような大きな木の枝葉の下で、腰の曲がった三人の魔女が歌っていた。

「美しいものは汚くて」

「汚いものこそ美しい」

「霧と汚れた空気の中を、漂うものこそ――」

 一人の魔女の頭が弾け飛んだ。柘榴の果汁のように赤い液体が辺りに飛散し、残る二人の魔女の頬を彩った。

「な――何者だ!? 誰だ、貴様は何だ!」

 ゆっくりと、頭部を失った魔女の身体が傾き倒れる。

「何だ、とは妙なことを言うね。私が人間に見えないと?」

 男は心外だと言わんばかりの口調で、場違いなほどに穏やかな笑みを浮かべていた。

「貴様、は――王、いや、貴様は――」

 魔女の頭がもう一つ、軽快な破裂音と共に弾けた。一人残された魔女は全身を震わせながら後ずさる。その顔は恐怖に歪み、ひび割れた唇からは泡を噴きながら、ただ叫んだ。

「偽物め! 貴様は王ではない! その皮はいずれ剥がされ――」

 魔女には、その言葉を言い切ることはできなかった。目には見えない巨人の手に握り潰されるように、あるいは熟した果実が肥大に耐えきれず内側から爆ぜるように。

 

「それは呪詛なのかい? 予言なのかい? どちらにしても、構わないけれど」


 場には頭部のない三つの亡骸と、赤い髪の男だけが残った。雨に打たれ、希釈されていく血溜まりを踏み分けながら、彼は魔女だったものに近付いた。冷え切った青白い指先が、悍ましい音を響かせながら亡骸の内側を弄っている。

 誰も見ていない、誰も聞いていない。全ては雨音にかき消され、洗い流されていくだろう。

「……うん? 心臓は二つで良いのだったかな。まあ、半分に分けて詰めておけば良いか……うん、多いに越したことはない」

 遠くで雷鳴が響いていた。

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