エピローグ:木漏れ日のアネモネ

目が覚めると、まだ薄明るい午前の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。

柔らかなシーツの感触と、となりで小さな寝息を立てているロミアの気配が、ゆっくりと現実へと俺を引き戻した。


「……○○くん、起きてる?」


ロミアは、俺の胸元に顔をうずめて、小さな声で問いかけてくる。

ミントグリーンの髪が、寝癖のままふわりと広がり、俺の首筋をくすぐる。


「ん、起きてるよ。おはよう」


「おはよー……ロミア、今日もいっぱい甘えていい?」


「……いいよ。今日は、なんでも好きにしろ」


そう答えると、ロミアはぱっと顔を上げて、満面の笑みを浮かべる。


「わーい!○○くん、だいすき!だいすき!だいすき!……ロミアのこと、今日もいっぱいかわいがって?」


「……仕方ないな」


いつも通りのやりとり。けれど、この日常がどれほど特別なものなのか、俺はもう十分知っている。



ロミアと暮らす毎日は、穏やかなだけじゃない。たまにロミアは理由もなく落ち込み、夜中に大泣きすることもある。

俺が仕事や勉強に集中していると、子犬のように袖を引っ張って「見て見てー!」と邪魔をしてくる。

ときには甘えすぎて拗ねてみたり、些細なことで感情を爆発させて、家の中でわんわんと泣き叫ぶ。


だけど──その全部が、嘘のないロミアだ。


「○○くん、今日の朝ごはん、ロミアが作ってもいい?」


「またホットケーキ?昨日も食べたぞ」


「だって、○○くんが一番好きでしょ?ほら、ロミアの特製だよ。いっぱい褒めてね?」


「はいはい、失敗してもちゃんと褒めるから」


キッチンへ行くロミアの後ろ姿を見送る。

彼女のサイドテールは、いつもより少し緩んでいた。朝の光を受けて、髪の色が一層明るく輝く。



~~~



……そのあと、焦げたホットケーキを前にして二人で笑い合った。

バターを乗せすぎてベタベタになった皿を見て、ロミアが「ロミア、ほんとにダメな子だよぉ」と拗ねるので、俺は頭を撫でる。

「これが一番うまいよ」と言うと、ロミアは涙を浮かべながら満面の笑みを浮かべる。



洗い物を終えてリビングへ戻ると、ロミアが膝の上に座ってくる。


「ねえ、○○くん……こうしてると、世界で一番幸せかも」


「そうか?」


「うん。だってね……○○くんの特別でいられるだけで、十分なの」


「俺も、ロミアの隣が一番落ち着くよ」


「えへへ、○○くん、大好き!」


彼女は嬉しそうに俺の腕に抱きつき、しばらくそのまま離れようとしない。

外の世界がどうでもよくなるほど、ロミアの体温が伝わってくる。



時には夜、唐突に「○○くん、ロミアいなくなったらどうする?」と不安げに尋ねてくる日もある。

そんなときは、ぎゅっと抱きしめて「どこにも行かせない」と耳元で繰り返す。

ロミアは「ロミアも絶対離れないよ!」と泣き笑いで叫ぶ。

そのたびに、俺たちは何度でも“永遠の特別”を誓い合う。



日が落ちるころ、リビングでテレビを見ながらロミアが俺の肩にもたれてくる。


「ねぇ、サイドテール、結び直して?今日、朝からぼさぼさなんだもん」


「……はいはい、こっちおいで」


ロミアは素直に頭を差し出す。ゴムを外し、手ぐしで髪を整え、リボンを結び直す。

蝶の飾りは、今もロミアのお気に入りだ。「どう?」


「世界一かわいいよ」


「ほんとに?○○くんの特別で、世界一?」


「うん、間違いなく俺の永遠の特別」


ロミアは嬉しそうに身を寄せて、「だいすき!だいすき!」と何度も言う。



俺は、そんな彼女の全部を、ありのまま受け入れる。

感情の波も、不安も、涙も、笑顔も。どんなロミアも、全部愛してる。

世界でいちばんウザくて、世界でいちばん特別な“ひだまり”が、俺の隣にある。




この幸せが、きっとこれからも続くことを信じて。





-完-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る