第八章:蜜の独占
翌朝。
教室に入るとロミアはいつもよりさらに上機嫌だった。
「おはよーっ!○○くん!ロミア、今日も○○くんがだーいすき!」
昨日の「家庭訪問」で、彼女の孤独の根源に触れてしまった俺は、そのテンションを正面から受け止めるしかなかった。
放課後、俺は中学時代の友人(佐藤)と駅前で会う約束をしていた。
ロミアには「用事がある」とだけ伝えていたはずだった。
佐藤と合流し、カフェで近況を話していると、俺のスマホが鳴った。ロミアからだ。
「もしもし」
「もしもし、じゃなーい!○○くん、今どこで、誰と、何してるの!?」
まるで尋問だった。
俺が「友人とカフェにいる」と正直に答えたのが間違いだった。
「なんでロミアに嘘ついたの!?『用事』って、ロミアより大事な用事だったんだ!
ひどい!ロミア、今からそこ行く!」「は!?来なくていい!」
電話は一方的に切れた。佐藤が「彼女?」と苦笑いする。
~~~
20分後、カフェのドアが勢いよく開き、ロミアが(もちろんサイドテールと蝶のリボンで)仁王立ちしていた。
「みーつけた」
ロミアは俺たちのテーブルにまっすぐやってくると、俺と佐藤の間に無理やり割り込むように椅子をねじ込み、俺の腕に抱きついた。
「○○くんの『カノジョ』のロミアでーす!いつも○○くんがお世話になってまーす!」
佐藤は目を丸くしている。
「○○くん、ロミアのこと『世界一好き』って言ってくれるんだよねー!」
「○○くんはね、ロミアがいないと何もできないんだよ!」
俺と佐藤の会話に一切の隙間を与えず、ロミアは機関銃のように「私と○○くん」の話だけを続ける。
佐藤が俺に部活の話を振ろうとしても、「あ、その話、ロミアも知らなーい!ねえ、○○くん、ロミアの知らない話しないでよ!」と大声で遮断する。
完全に「二人だけの世界」を作り上げ、佐藤を「邪魔者」として排除しにかかっている。
~~~
10分後、佐藤は「……ごめん、俺、やっぱ用事思い出したわ」と怯えた顔で席を立った。
誰もいなくなったテーブルで、ロミアは満足げに俺の腕に頬をすり寄せた。
「……○○くん、わかった?○○くんの『特別』は、ロミアだけなの。」
「……お前さ、あいつに失礼だろ」
「だって、ロミアが一番じゃないと嫌だもん!」
ロミアは涙目で俺を睨みつけた。
「ロミア以外の『特別』は、ぜんぶ敵なの!ロミアが一番じゃないなら、ロミア、○○くんの邪魔する人、みんないなくなればいいのにって思っちゃう!」
昨日の「孤独」を知った後では、その言葉はただの「重い」では済まされない、呪いのような響きを持っていた。
その泣き声は、昨日の家で見たあの静けさの裏返しだった。
彼女の“飢え”が、俺を通して世界と繋がっているのがわかる。
「……わかったよ。お前のこと、ちゃんと見てるから」
「ほんとに?ロミア以外、見ない?絶対?」
「絶対だよ」
ロミアは顔をあげて、涙の跡をぬぐい、満面の笑みを浮かべた。
「大好き、○○くん。これからも、ずーっと一番にしてね?」
あざとくウザく作られた笑顔。
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