第三章:渇望と過剰な光合成

教室の窓際でぼんやりしていると、またしてもロミアが俺の隣に座る。

朝からずっとだ。しかも、わざと俺の机の端ギリギリまで自分の椅子を寄せてきて、俺のノートを覗き込む。


「ねえ、ねえ!○○くんって字きれいだねー!ロミア、真似していい?」


わざとらしいくらい大きな声で言ってくる。

そのたびに、数人のクラスメイトがこちらを見て苦笑いする。

ロミアはそんな視線を吸い上げているように、ますますテンションを上げていく。


「えー!○○くんの反応薄すぎ〜!せっかく褒めたのに、ロミア泣いちゃうから!……って、いつもこればっかりだよね。今日は違うアプローチで、手紙を書いてみたよ。読んでみて?」


机に突っ伏してみせる。

いつものように俺は「静かにしろよ」と一言返すだけ。


でもその日は少し違った。

たまたま、掃除の時間に黒板を消す手際の良さを見た俺が、思わず口にした。


「ロミア、黒板消すのうまいな」


その瞬間、ロミアは一気に顔を上げて目を輝かせる。


「え、ほんと?ほんとに褒めてくれた!?やったー!

 ロミア、○○くんに褒めてもらえるなんて、今日一日ずーっと元気出ちゃう!」


大げさすぎるくらい両手を上げて跳ねる。

クラス中が一瞬静まり返るくらいの大喜び。


「みんな聞いて!○○くんがロミアのこと褒めてくれたの!ロミア今日ずっと幸せだよー!!」


どうしてそこまで…と思うほど全身で喜びをアピールしてくる。

そのテンションの高さに、周りの生徒たちは驚き半分呆れ半分の声。



~~~



けれど──

その日の昼休み。

俺が他の男子とくだらない話をしているだけで、ロミアはいつの間にか机に突っ伏していた。


「……○○くん、ロミアのこと見てくれてない」


ポツリと呟いたかと思うと、突然大きな声で泣き始める。


「うわああん、○○くん、ロミアのこと無視するなんてひどいよ!ロミア、さみしくて死んじゃうよぉ!」


わざとらしいと思ったが、顔は本気で涙ぐんでいるようにも見える。

クラスメイトが「どうしたの?」と心配して近づくが、ロミアは俺の袖をぎゅっと握って離さない。


「○○くん、なんでロミアだけ見てくれないの?ねえ、ねえ、ロミア、こんなに好きなのに!」


周囲がざわつき始める。

その中心で、俺はなぜかロミアに目を向けざるを得なくなる。


「分かったから、泣くなって」


「ほんとに?ロミアのこと、ちゃんと見てくれる?

 ロミア、○○くんにだけ褒められたくて頑張ってるのに!」


必死すぎて、正直うんざりする。でも、ロミアはそれくらいじゃ止まらない。

午後の授業でも、指されたときは大きな声で返事をして、ノートを見せつけるように俺にアピールしてくる。

終わった後は、わざと俺の机にぶつかって「ごめん、ロミア、うっかりしちゃった♡」と笑う。



~~~



放課後。帰り支度をしていると、またロミアが駆け寄ってくる。


「ねえ、○○くん!今日のロミア、どこが一番かわいかった?

 ちゃんと答えてくれなきゃ、ロミア、家に帰れない!」


「……知らねぇよ。普通だっただろ」


「ひどいっ!ロミア、すっごくがんばったのに!○○くんのバカ!」


泣き真似をしながら、今にも本気で泣きそうな顔をする。


「もう知らない!ロミア、明日から口きかないかも!」


「好きにしろよ」


俺がそう返すと、ロミアはほんの一瞬だけ本気で傷ついた表情を見せた。

けれどすぐに大きな声で


「うそ!○○くんがロミアのこと気にしてくれるまで、ずっと騒ぐもん!

 明日も明後日も、ずーっと一緒にいるもん!」



俺はため息をつくしかなかった。

まるで感情がジェットコースターのように振り切れて、上がったり下がったりする。

周囲の生徒たちも、「またか」「ほんとに好きなんだな」なんて言いながら距離を取り始めている。



でも──

ロミアが俺を見ているときだけ、その瞳の奥に「必死さ」がちらつく。


注目されない不安と、注目されたときの喜び。

その落差の激しさに、俺はだんだん“普通のやつじゃない”と思い始めていた。


それでも、次の日もまたロミアは俺の前に現れ、笑顔と泣き顔を使い分けては、俺の心をどうにか動かそうとし続ける。



“ロミアの感情は、全部、俺だけに向けられている──”



そう改めて実感させられた。

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