後半



 俺の名前はリク。転生者だ。今から1か月前、アレスの魔女に勧誘されて、魔女になった。


 理由は、上から見下してくる偉そうな奴等を、この手で一掃したかったから。


 それなのに、新人である俺の監視役に就いた先輩は、殺人を許さなかった。痛めつける事は許可しても、命を奪う事だけは絶対に許可しない。



 最初はそれでも、俺は構わなかった。人間離れした力で、社会のクズ共を蹂躙するのは最高に良い気分だったからだ。


 だが段々と、満足できなくなってくる。偉そうにふんぞり返っていた奴に痛みを教えるだけじゃ、満足できなくなってきた。


『もっと、面白くならねーかなァ……。』



 俺は思いついた。先輩は俺を見下すのではなく、俺の長所と短所を客観的に見ているだけ。だから別にぶっ飛ばそうとは思わない。


 俺に力を与えた奴は、どうだろうか? きっと俺の事を見下しているに違いない。ソイツを痛みつけてやればいい。



『なァ先輩、TSギアを作った奴って何処にいるんだ?』

『……知ってどうする。』

『ちょーっとだけ、感謝を伝えたくてよォ。』


『ボクはお前を信用していない。』

『まさか、俺が警察の犬だとでも言いたいのか……?』


『勘違いするな、お前に問題があるんじゃない。ボクが組織の人間として仲間を信用しないだけだ。』


『……あァ、そういう。』


 先輩のこういう所、ちょっと好きなんだよな。見た目だけ可愛いくて、中身はしっかり腐ってる感じ。


 先輩は俺に気を遣ったのか、奇妙な提案をしてきた。


『退屈してるなら、ゲームでも したらどうだ。』

『ゲーム……。俺、あんまゲームしないっス。』



 そんな事を言っていた俺だが、普通にハマった。無限に湧いてくる雑魚を狩りまくる、それだけの単純なスマホゲーム。


 もしかして、これが「見下す側」の景色なのか? ……なるほど、これは確かに心地良い。


 どこか、クズを甚振いたぶっている時に似ている感覚だ。でも、何かが違った。


『……見下すこっち側も、悪くねーなァ。』


 俺はしばらく、「見下す人間」として無双ゲームをプレイした。警視庁を襲撃し、警察の特殊部隊を殺してやった。


 この上無く心地良かった。あの日以降、先輩が俺を嫌っている気がするのは、俺が人殺しになったからか。


 でも、先輩も所詮は仕事仲間だ。別に大好きな人とか、そんなんじゃない。


 そんな事は気にせず、俺は「ゲーム」を楽しんでいた。



 ―――――だが やはり、俺は人を見下す奴が許せなかった。俺には「無双ゲーム」で遊び続ける事ができない。


 俺を見下してくる奴等は、でぶっ飛ばす。







「俺を、見下してんじゃねェ……!!」

「なんか、さっきから君プライドすごいね……!?」


 薔薇の魔女に呆れながら、俺は赤いハートの《A》と黒いハートの《jack》を組み合わせた。


 俺は勝利を確信したが、カードのルールが発動する頃には、既に魔女は攻撃を終えていた。


 俺の腹に、強烈な殴打が押し込まれている。俺が泡を吹きかけた瞬間、後方へ身体が弾け飛ぶ。


「がッ……はぁッッ!!」


 地面と身体が激しく衝突する。染み込んでくる痛みが、俺から油断と安堵を奪い去っていった。


 ハートの《A》のルールが発動してから、俺の体感で4秒が過ぎた。。ルールは発動している。






 《A》のルール:4秒間『対象の時間進行を10倍速にする』、《jack》:『自分を対象に指定する』。つまり、実際には0,4秒しか経過してない。


 俺が10倍速で行動できる残り時間は、俺の体感で約40秒。今なら、魔女のスピードについていけるはずだ。


 魔女が何か言っているが、余りにも遅すぎて聞き取れない。俺は拳を握ると、魔女に向かって駆け出した。


 少し遅れて、魔女も俺に向かって走り出す。


「っ……!?」


 俺は驚いた。この魔女、。今の俺が安定して身体を動かせるスピードと、およそ同じ速さだ。


「おいおいオイ、10倍速だぞ!? なんでついて来れるんだよ!?」



 ……いや、もっと。俺は、完全に制御できなくてもまだできる。


 俺は片手で魔女の拳をなした後、全力で魔女の腹部を殴りつけた。


「…………。」


 相手の反応からして、威力が足りてない。俺が一旦魔女から距離を取ると、キョウカちゃんが銃撃で魔女を牽制してくれる。


 そのうちに、俺はトランプの束をシャッフルしてカードを1枚だけ引く。《JOKER》だ。



 《JOKER》:4秒間『任意のルールを、任意の対象に発動』。そして、ルールと対象は……。


TSへんしんを強制解除、対象は桃色の髪の魔女。」


 ここで重要なのは、俺の体感ではなく、実際の4秒間このルールが発動するという事だ。


 俺の体感で、10倍速ハートのAの残り時間はおおよそ25秒。言い換えれば2,5秒だ。


 時間は十分。美少女の姿が茶髪の青年に変わったのを見ると、俺は手加減して彼の頭を殴った。


 青年はスローモーションで倒れていく。念の為、腹にも1発。なんかコイツ ウザかったから、頭にもう一発。



Aエースを解除。」


 《JOKER》の時間切れで、青年が再び魔女に戻る可能性を心配をしていたが……杞憂だったらしい。


 何秒経っても彼は魔女に変身しない。というか、完全に伸びちゃってる。


「ふっ……。俺とキョウカちゃんの勝ちだな。」







 という訳で、薔薇の魔女との戦闘は一件落着した。強かったのは間違いないが、キョウカちゃんが頼もしすぎた気がする。


 そもそもだが、俺がカードを操作する時間があったのは、キョウカちゃんが敵を引き付けていてくれたからだ。


 俺が10倍速でどうにか魔女と一騎打ちで勝てたのも、相手が雷撃で消耗させられていたから。


 俺は与えられた時間と機会の中で、どうにか足掻いてだけだ。


 俺の実力が、アレスの魔女を相手に通用した訳じゃない。


 薔薇の魔女——自称「熱海リク」————は警察に逮捕された。ギアも破壊された為、変身して刑務所を脱獄する心配はないだろう。





 それから数日、報告書を作成したり、キョウカちゃんと特訓したり。久々におっさんの姿で、郷矢さんと一緒に飲んだりもした。


 郷矢さんは、金髪でピアスを空けて、黒い皮ジャケットを羽織ったヤンキーみたいな恰好だった。最初、想像と違い過ぎて怖かった。




 某日、自宅。俺は 例のトランプのカードを1枚ずつ確認していた。


「3は……カードと対象の位置を入れ替える、か。これって『ルール』なのか……?」


 俺が小さく唸っていると、スマホから通知音が鳴った。


「キョウカちゃんかな……?」


 西木キョウカは郷矢さんの偽名だが、正直こっちの方がしっくりくる。キョウカちゃんも、なんか乗り気みたいだし。


『おう、キョウカだぜ。』


 by 酒の入った郷矢さん。機密保全は どこ行った……?



 待ち受け画面を見ると、SNSアプリのメールが届いていた。その送り主は、意外な人物だった。


「ハナビちゃん……?」


 内容はこうだ。『こんにちは、この前コンビニで会った小石ハナビだよ! 覚えてるかな(笑)』


「忘れる訳ないよ、君みたいな素敵な子……っと。——それにしてもキモいなぁ、俺。」


 向こうは女子同士の会話だと思っているけど、俺の正体は警察のおじさんだ。普通にホラー過ぎる。


 俺、犯罪者になってないか? 大丈夫なのか、コレ?


『良かったー!』

『もし良かったらさ、今度ボクとデートしない?』


 謎過ぎる、可愛いペンギン(?)のスタンプ。赤いハートを抱きながらウインクしてる(?)。


 この世界の若者はスゴイなぁ。なんか、うん。こう、何というか……スゴイよね。(語彙が死んでる)


「……ん?」

『無理なら全然言ってね!』


 『デート』だとゥ……!? 犯罪じゃねーかッッ!! 無理なら言ってね? うんうん、絶対に無理だね!!


 だが、俺は思い出してしまった。ハナビちゃんの無垢な、エメラルド色の瞳を。


 あの子は俺……じゃなくて、ユージニとの再会を楽しみにしているのだ。良い歳した大人が、健気な子供の夢を壊すのか?


 否。断固として否である。一度着ぐるみを着たなら、最後まで子供の夢を守らなければ。これは大人としての、俺の責任だ。


「大丈夫だよ、いつが良い……?」

『明後日とか、どう……?』


 再び舞い降りる、謎のペンギン様。


「いいね、と。……にしても、何してんだろ。俺。」


 銀髪の美少女の可愛らしい声が、心なしか俺を嘲笑しているように聞こえる。自分の声のはずなのに。


「……あっ、ファッションどうしよう!?」


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黒月凪咲へ 添削してほしい話はここに入れるぜ へろあろるふ @bkuhn

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