黒月凪咲へ 添削してほしい話はここに入れるぜ

へろあろるふ

TSギア

第4話


「……という事がありまして。」


 近所のカフェテリアで、俺はキョウカちゃんにカードの話をした。キョウカちゃんはアイスコーヒーを一口飲むと、どこか嬉しそうな目で相槌を打つ。


心象現化アディクションだな。ついに発現したか。」

「……そういえば、心象現化ってどういう力なんですか?」


 超能力という事は分かったが、いまいち規則性が掴めない。


 キョウカちゃんはサンドイッチを平らげると、両手のパンくずを払った。俺はキョウカちゃん の返答を静かに待つ。


「……。」

「…………。」





「知らん。」

「えぇ……!?」


 ふざけているのか と思ったが、キョウカちゃんは真面目な表情で見つめ返してくれる。


「憶測なら、幾つかある。例えば……使用者を異世界と接続リンクしている、とかな。」

「い、異世界。こことは更に別の世界って事ですか?」


「そうだ。俺もお前も、を召喚している。」


 言われてみれば、キョウカちゃんの拳銃も俺のカードも、本来はこの世に存在しない物なんだろう。


 キョウカちゃんの心象現化アディクションの詳細は知らないから、何とも言えない事ではあるが。



「あくまで憶測だ。ユージニは、まず心象現化アディクションを使いこなせるようになってくれ。」

「了解ですっ。」






 俺とキョウカちゃんはカフェを出て、帰路に立つ。


 ちなみに、相談の場としてカフェを選んだのは俺だ。理由は単純に、SNSで流行っていたスイーツを食べたかったから。


 ……中身まで女子高生になったのか って? まさか。ただの甘党だ。




 俺とキョウカちゃんが全長20m程度の橋を歩いている時、俺の耳元で突然 女の声がした。


「奴のバラには飛び道具がある。気を付けろ。」

「え、何なに……!?」


 一瞬遅れて理解したが、その声はからの警告だった。何らかの策略かと思った矢先、キョウカちゃんが立ち止まる。


 キョウカちゃんの腕時計から、電子音声が発せられた。


『TSギア、魔法制御システム・解放。心象現化アディクション。』

「ユージニ、心象現化を出してくれ。」

「りょ、了解!」


 俺が言われてカードを召喚したタイミングと、恐らく同時。俺とキョウカちゃんの前方に美少女が現れた。


 全く勘弁してほしい。こちとら、小さな腹に豪奢なパンケーキを納入したばかりなのだ。


 気を滅入らせた俺は『ここで魔女を捕まえれば、世界が少しだけ平和になる』、自分にそう言い聞かせた。


 キョウカちゃんの手元に、蒼いネオンライトが召喚される。それは高速で渦を巻いた後、拳銃の形を現した。




 今の所、相手は一人だ。桃色の長髪をハーフツインで整えた、青い瞳の少女。その頭上では金色の王冠が浮遊している。


 あれが彼女の……いや、心象現化アディクションなのだろう。



 灰髪の少女もとい、不可視の魔女も警戒したい所だが、俺を殺したいだけなら さっき殺していたはずだ。


 そして、俺に対する警告。この二つの事実を加味して推測すると、少なくとも 今だけは――——不可視の魔女は敵じゃない。


「ユージニ、包囲されてる。」


 キョウカちゃんに促されて後ろに目線を遣ると、尋常ではない量の薔薇ばらの集合体が、橋を封鎖していた。


 薄暗い緑と鮮やかな赤が、視界を覆う程に大きな壁を築き上げている。前方にも同じ物が展開されており、俺とキョウカちゃんに逃げ場はない。



 自らが立つステージを整え終えた相手は、満を持して開口した。


「オレは、アレスの魔女の一人だ。今日は佐藤悠治、お前の抹殺が目的で来た。そこの民間人に危害を加えられたくなければ、大人しく……。」


 微笑みながら キョウカちゃんに目線を向けた彼女は、光る銃を見て硬直する。


「民間人じゃないな。普通に魔女じゃねーか。」


 ――コイツ、馬鹿だな?


 キョウカちゃんが半ば軽蔑するような目で彼女を見て、静かに警告する。


「お前、今から投降しても遅くないぞ。大人しく武装を解除し、警察に連行されてくれれば、お互いに痛い目を見なくて済む。


 お前も魔女だが、こっちは魔女が2人いるんだ。お前に勝ち目はない。繰り返す、今すぐ投降しろ。」


 キョウカちゃんの言う通りだ。もしも戦闘に入るというなら、彼女は余りにも愚かだろう。


「ご忠告痛み入るよ、お巡りさん。でもねぇ、オレはゲームが大好きなんだよ。可愛らしいモブ共を蹂躙する、無双ゲーってやつが……!!」



 10m程の高度で滞空している、王冠を模した ネオンのような紋章。そこから無尽蔵に薔薇が伸び、壁を形成している。


 見ての通り、彼女の心象現化アディクションは王冠から薔薇を生やす能力だろう。もちろん それだけとは限らないが。


 キョウカちゃんは俺に歩み寄ると、耳打ちした。


『俺が奴を正面から叩く。ユージニは包囲網を突破してくれ。それを確認したら俺も合流する。』


 俺は頷くと、敵に背を向け 後方の壁を睨み付けた。キョウカちゃんは薔薇の魔女と対峙し、蒼光のピストルを構える。


 俺とキョウカちゃんの背中が、ぴったりと合わさった。



 俺はトランプの束をシャッフルし、5枚のカードを引く。


 引いたのは、黒いクローバーの《2》が1枚、黒いハートの《Queen》が2枚、赤いスペードの《6》、赤いハートの《9》。


 それぞれ、絵札ごとに異なる【ルール】を持つ。それらを複数で組み合わせる事が、ルールの発動条件だ。


 背中はキョウカちゃんに任せた。後ろで鳴り響く銃声を信じて、俺は壁の突破に集中する。


 《2》のルールは、4秒間『対象が摩擦を発生させる時、摩擦をゼロにする』。俺はそこに《Queen》を組み合わせた。


 《Queen》:『を対象として指定可能。』


「ターゲット、薔薇。」


 使った2枚は発光した後、煙のように消えてしまった。持続するのは4秒のみ。俺は間髪入れずに次の手札を切った。


 《6》:4秒間『発光しながら温度が上昇する。』、《9》:4秒間『形を固定する。』、《Queen》:空気を対象に指定。



 俺は空気の一部の形を槍型に固定し、それを掴んだ。温度が上昇し始めるそれを勢いよく投擲し、壁に突き刺す。


 薔薇を編んで形成された壁には、小さな隙間が無数にある。そこから摩擦を発生させなくして、槍を滑り込ませたのだ。


 小さな隙間。穴。それを、空気で できた槍を加熱し、膨張させて押し広げた。


 猫が通り抜けられそうな大きさまで、穴が広がった。空気の槍一本なら、せいぜいこの程度だろう。



 そしてもちろん、4本用意している。1秒に1本のペースで投擲。俺は一点に集中して槍を投げ込み、壁に大穴を空けた。


 そのままダッシュで、空気の形固定ハートの9が解けると同時に壁をくぐり抜ける。


「よっ――と」


 薔薇の壁、突破完了。


「キョウカ、出たよ!」

「よくやった。」


 キョウカちゃんは、俺の足元に近い地面を射撃する。すると、キョウカちゃんは着弾したポイントに瞬間移動した。


 何それ。チート能力じゃないですか?



 キョウカちゃんは小声で俺に囁く。


「奴は白いつぼみから種子を飛ばしてくる。こっちの飛び道具は薔薇の壁で妨害される。

 奴のテリトリーは、少なくとも5m圏外だ。」


「……なら、作戦があります。」

「聞かせてくれ。」





 アレンナという偽名の少女は、橋とは さほど離れていない ビルの屋上に座っていた。


 濡れたコンクリートのような、灰色の髪が風に靡いた。その漆黒の瞳に、橋での戦闘が静かに映っている。


 正確には、ユージニが包囲を突破するまでは薔薇の壁しか見えなかったのだが。


「さて、どういう能力だ……。」


 アレンナの静かな声が漂った。その目には、警戒に似た僅かな期待が宿っている。


 アレンナは、薔薇の魔女が負ける事を知っている。今までに何度か対峙してきた、【西木キョウカ】の強さを知っているからだ。



 アレンナは基本、排除すると決めた対象には必ず致命傷を与える。致命傷を負った人間は、蛮勇か狂気の沙汰でもない限り、その傷の処置を最優先したいだろう。


 そうなれば、相手は戦闘の離脱を望む。これは、あくまで止めは刺さない、彼女なりの「敵を無力化する手段」ともいえる。


 だが、西木キョウカはアレンナにとって例外だ。殺す気で、全力で相手しないと、そもそも自分の身が危ないのだ。


 銃も短剣ナイフも、その本領は「殺人」にある。手加減という概念とは前提として相反する物なのだと、両者は悟っている。


 だから、の時。アレンナは、キョウカが躊躇なく魔女を殺す事を知っている。


 キョウカに殺人の決断を迫るほどに、薔薇の魔女は強くない。少なくとも、アレンナが知る限りでは。



 判り切った勝敗よりも、彼女はユージニの能力に注目してきた。敵の新戦力の 手の内を、少しでも知っておきたいからだ。





 薔薇のカーテンが左右に開かれた後、魔女は愉快そうに言った。


「いいねェいいねェ、2対1だッ。これぞ無双、ゲームってやつだ!」

「何言ってんだコイツ……。」


 ゲームで無双? 馬鹿なのか? いや、間違いなく馬鹿だ。薔薇の魔女はどうやら、この世界でプレイヤーだと思っているらしい。


 つまり、シングルプレイヤーゲーム。俺とキョウカちゃんは、プレイヤーに倒されるモブだと言いたい訳だ。


「錯覚してるよ、君。」

「あァ……? 」


 この世界には、ゲームがある。誰もが、人生という唯一無二のゲームの、特別なプレイヤーだ。


 つまり、マルチプレイヤーゲーム。俺もプレイヤー。キョウカちゃんも、薔薇の魔女もプレイヤー。


「プレイヤーはお前だけじゃない。今この戦いゲームをプレイしているのは、俺と、キョウカちゃんと、お前の3人だ。」


「……はァア!? モブの分際でゲームを語るなッッ!!」


 地面を這うような動きで、薔薇が津波の如く迫って来る。かなり速い。だが、それでも弾丸には敵わない。


 この物量に銃弾が意味を成すのか、甚だ疑問ではあった。だが、迷いなく銃口を向けるキョウカちゃんを見れば分かる。


 ————問題ない。



 一発の射撃により、弾丸は薔薇の波に飲まれて消える。それが無意味に見えた一瞬の後、凄まじい轟音と共に閃光が駆け出した。


 それは光速。四方八方に飛び散り、薔薇の集合体を焼き焦がしながら伝播して、王冠の紋章にまで届いた。


「ユージニ、忘れるな。心象現化アディクションで召喚した物は、例え持ち主から離れても強いを持つんだ。」



 轟音と閃光の正体は、雷だ。その尋常ならざる電気量は、王冠まで到達した次の瞬間、薔薇の魔女に降り注いだ。


「ァアアアアッッ!!!?」


 いくら変身で皮膚や筋肉を強化したところで、体内に流れ込む電流の前では無力だ。美しかった魔女の姿は見る影もない。


 片膝をついた後、よろよろと起き上がろうとする薔薇の魔女。流石は魔女だ。あり得ない生命力を持っている。


「ふ、……ァけ、やがって……。」

「今の電撃でギアは破壊されたはずだ。奴はもう戦えない。」


「なァ……舐めるなよォ……ッ。」


 無様な体たらくを晒した魔女は、両手の拳を構えた。次の瞬間、その姿が消える。


 同時に、キョウカちゃんが蒼光の銃で瞬間移動した。一瞬前までいた場所の、地面が破裂して四散する。


 そこに立ったのは、薔薇の魔女だった。ありえないスピードだ。美少女モードの俺の肉眼で、全く姿を捉えられない。動きが速すぎる。


「ラウンド2、だァ……ハハッ。」

「……さっさと倒れてくれよ。」


 俺はうんざりとして息をつくと、トランプの束からカードを3枚引いた。



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