無能だと追放された下人ですが、老婆の衣服と髪を毟り取ったらSSS級アイテムで、1000億稼げました
キャッチコピー:
【急募】装備を解除、髪を回収するだけの簡単なお仕事。勤務時間・一瞬。時給1000億。
ブラック職場をクビになった俺の、最短・最高の逆転劇。
作品紹介:
俺は下人。平安京のブラック職場で散々使い倒された挙句、不況を理由に追放された。
手持ちゼロ。宿なし。降りしきる雨の中、羅生門の門下で「詰んだ」と思っていた俺の前に、最高のボーナスステージが現れた。
楼の上で見つけたのは、死骸から素材をドロップさせている老婆。
聞けば、この素材を換金して食い繋いでいるらしい。
「なるほど、これがここでの効率的な稼ぎ方、生存戦略か」
俺は即座に老婆の装備を解除し、溜め込まれたSSS級アイテムを全回収。
「生きるためなら、何をしてもいいんだろ?」
罪悪感? そんなの、稼げない奴の言い訳だ。
勤務時間わずか数秒、アイテム換金で一攫千金、追放した連中を見返して、悠々自適の成り上がり人生へ!
さあ、これからは俺がこの平安京の夜を「支配」する側だ!
分解図:
すがすがしいほど、なんかいろいろと失っている、この下人。
ここからは、『羅生門』のなろう的価値観への読み替えで、何がどう失われたか、構造分析して言語化していきます。
分解① 雨と選択の距離
『羅生門』では、雨は背景でありながら、下人の思考を冷やし続けています。
濡れながら立ち尽くす時間そのものが、判断を遅らせ、迷いを膨らませます。
なろう的価値観では、雨は演出です。
選択は即座に行われ、結果は効率よく回収されます。濡れる時間は短縮され、躊躇はコストとして省かれます。
分解② 「選んでいるつもり」の構造
『羅生門』の下人は、「自分で選んだ」と思いながら、実際には追い詰められた末の一択へと滑り落ちています。
なろう的世界では、選択は常に主体的です。
追い詰められていても、主人公は「納得した上で」行動します。
その差は小さく見えますが、後戻りできないほど大きく、遠い。
分解③ 行為が「仕事」になる
衣を剥ぎ、髪を
だから下人は言い訳を探し、戦慄します。
それがなろう化で「仕事」になった途端、戦慄もなく震えは消え、対価が前に出ます。
行為は評価され、時間は報酬に変換されます。
分解④ 行方は誰も知らない、のスパン
『羅生門』の「行方は誰も知らない」は、未来を閉じるための言葉ではありません。
判断が世界に投げ出されたまま、回収されない状態を示しています。
なろう的構造では、行方はすぐに示され、結果は短距離で還元されます。
刹那は残らず、連続性だけが残ります。
分解⑤ 赤く頬に膿をもった大きな
『羅生門』の下人の顔にある面皰は、説明されません。
すべてが言語化され、不満が外部要因に整理されるなろう的世界の主人公に、悪に傾く前触れとしての
頬は腫れず、膿は溜まらず、物語は清潔なまま進みます。
主人公のひとりごと:
あの日の雨は、平安朝の下人の Sentimentalismeを育ても癒しもしなかった。
楼の上で老婆を組み敷き、その着物を剥ぎ取った男の指先に、もはや「選ぶことの戦慄」は宿っていない。一千億という莫大な数字が、彼を苛んでいた飢えも、雨の冷たさも、すべてを「対価」として相殺してしまったからである。
何より、男の右の頬を醜く歪めていた、赤く膿を持った大きな面皰は、今や跡形もなく消え失せている。悪に傾く人間の生々しい証であったその醜さは、SSS級アイテムを手にした瞬間、磨き上げられた陶器のような皮膚へと書き換えられたのだ。
男は門の下の闇へと駆け出した。だがそれは、人倫を捨てて深淵へ踏み出した者の孤独な背中ではない。ただ、計画された報酬を手にし、面皰という名の「人間臭い苦悩」さえも脱ぎ捨てて、次の目標へと向かう空虚な身代わりの移動であった。
下人の行方は、もはや誰かが案ずるまでもない。
そこには「未知」という名の余白は一寸も残っておらず、ただ仕組みが約束した「計画通りの成功」という、白々しい光が降り注いでいるだけなのだから。
次の更新予定
文学作品で読み解くなろう系の作り方 鏑木えり @el_kaburaki
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