第2話 出会い
少し迷ってから女性の手を取ると、一気に引き起こされる。勢い余ってちょっと体勢を崩してしまった。「わっと。あ、ありがとうございます。」
女性は私より背は高いものの体つきは華奢に見える。一体どこにそんな力があるんだろうかと不思議に思ってしまう。それに⋯、視線を落とすとさっき私を襲ってきた男二人が完全に伸びている。素手であっという間に武装した成人男性を制圧してしまうなんてただ者じゃないよなあ⋯。
「まったく。コイツらを追って来てみればとんだオマケがあったもんだ」
「あ、この人たち有名な悪者なんですか?」
「別に有名ってわけじゃないけど、最近町での悪さが過ぎるからギルドから手配されてたんだよ」
「悪さ⋯あっ、そう言えば!」私は急いで泥棒の荷物を探ってみる。あれでもない、これでもないとゴソゴソと探っているうちにようやく一枚の金貨を探り当てる。「あった!よかった⋯。」私の全財産。これが無かったらどうやって生きていけばいいのかわからない。まあ、あった所でまだ全然先行き不透明なんだけど⋯。
「なんだい、金貨なんて持ち歩いてんのかい。そりゃ、盗んでくれって言ってるようなもんだよ。」女性が呆れたような声を出す。そんな事言われても女神様が勝手に入れておいたんだよ、と思うがそんな事は言えないので、あはは⋯と愛想笑いをして誤魔化す。
「さてと⋯あっちに馬が停めてあるんだ。これから町に戻るけど乗っていくかい?」
「あ、是非お願いします。」渡りに船だ。なにせどこをどう走ってきたかもはや思い出せない。私は遠慮なくお言葉に甘えることにした。
ゴトゴトと揺れながら荷馬車が走る。私は御者席の隣に座らせてもらっている。荷台にはさっきの泥棒三人組がロープでぐるぐる巻きにされて雑に積まれている。荷馬車が大きく揺れるたびに「ギャッ!」「痛っ!」などと悲鳴が聞こえる。ふん、いい気味だ。
「そういや、名乗ってなかったね。アタシはカーラってんだ。アンタは?」
「あ、はい。ミナって言います。」
⋯⋯反射的に思いっきり前世の名前を名乗ってしまった。でも、仕方ない。なにせ私にはこの世界での名前なんて無いのだ。この世界での両親すら存在するのか怪しいもんだ。それもこれも全てあの女神様のせいだ。
「ふーん、変わった名前だね。」
「よく言われます。あは、あはは⋯。」どうせならもっとカッコいい名前を名乗っておけばよかった。
「アタシはコイツらを引き渡しに冒険者ギルドに行くけど、アンタはどこで降りる?」
「あ、お供します。」というか行き先なんて無いし、お邪魔かもしれないけど行ける所までついていこう。それにしても冒険者ギルドはあるんだな、この世界。ステータスオープンは出来なかったのに。
そんなことを考えている内に荷馬車は町のメイン通りらしき場所に差し掛かっていた。
角を曲がると「ほら、着いたよ。」とカーラさんが言った。ここが冒険者ギルドかあ。それほど大きくない建物なのにやたら背だけが高く、屋根のてっぺんに旗が掲げられている目立つ建物だ。まあ、さっきはそれどころじゃなくて全然気が付かなかったんだけど。
「それじゃ私はちょっと手続きしてくるよ」そう言ってカーラさんはギルドの建物の中に入っていった。ついていこうかなと思ったけど勝手に入っていいものかわからなくて外で待つことにする。
しばらくすると兵士らしき二人組がやって来て泥棒三人組を荷馬車ごとドナドナされていった。グッバイ泥棒さんたち。
ギィーっと音を立てて扉が開き、カーラさんが出てくる。「おや、まだいたのかい。」まあ、他に行き先も無いからなあ⋯、と思っていると「ほら」と言ってカーラさんが小袋をこちらに放り投げる。
「わ」反射的にキャッチ。「なんですか、これ?」何かジャラジャラと音がする。開けて中を見てみると銅貨や銀貨らしき物が入っている。
「アンタの取り分だよ。連中の一人はアンタがのしたんだから。」
「え、まさかお金ですか?貰えませんよ、助けていただいたんだし⋯。」
「いいんだよ。貰えるもんは貰っとけばさ。」カーラさんは苦笑したような笑みを浮かべる。「それじゃ、アタシは行くよ。これからはちゃんと注意するんだよ。じゃあね。」彼女は背を向けるとさっさと歩き出してしまう。
あ、あ、行ってしまう。この世界でたった一人の知り合った人が⋯。「あ、あの!ちょっと待ってください。実は家出同然で家を出てきて行く当てが無いんです!」反射的に大声を出していた。
カーラさんは立ち止まって振り返ると、まいったねという表情で頭をポリポリとかく。「家出ねえ⋯。仕方ない。乗りかかった船だ。話だけは聞こうじゃないさ。」
なんだかんだあって夕暮れに差し掛かっていた為か、町の食堂は既に常連客らしき人たちで賑わい始めていた。店内には食事の匂いに煙草の臭いが混じった独特の香りが漂う。まあ、全席禁煙なんて時代じゃないもんね。受動喫煙とか大丈夫かな?とか役に立たない前世の知識が頭を巡る。
それにしても、ただでさえお腹が空いていた上に長距離を全力疾走したのでお腹はペコペコである。この世界の食事が口に合うかはわからないけど、今なら何が出てきても美味しく食べられる自信がある。
「お待たせしました。」と料理が運ばれてくる。一体どんな料理が出てくるのかなと楽しみ半分不安半分で見てみるとお肉にお野菜、パンにスープと全然問題なく食べられそうな食事が出てきてホッとする。てっきり中世風の世界だから豆とか豆とか豆とか豆を煮込んだスープとか黒パンとか豆とか出てくるのかと覚悟していたのに。
「いただきます!」と手を合わせるとがっつくように食べ始める。そんな様子を向かいに座ったカーラさんが苦笑しながら眺めている。彼女はろくにご飯も食べずにビールを嗜んでいる。オトナだなあ、と思うけどお腹空かないんだろうかといらない心配をしてしまう。
「で、なんで家出なんてしたんだい?」
「あ、ふぁい」スープをゴクリと飲んで口の中の物を飲み込む。「ええと、その。冒険者に憧れて、みたいな⋯。」これっぽっちも憧れてなんかいないけどそれっぽく適当に出任せを口にする。
「ふうん、ま、そういうの多いけど冒険者なんてロクなもんじゃないよ。故郷に帰って親御さんを安心させてやった方がいいと思うけどね。」そうしたいのは山々なんだけど帰る故郷も両親もいないんだよなあ。スキップされたから。くそう、あの女神め。
「いえ、両親はいませんので⋯。」
「そうかい。そりゃ悪い事を聞いたね。」カーラさんの考えてる事とこちらの事情は全然食い違ってるけど説明出来る事でもないので放っておく。
「それでお聞きしたいんですけど、冒険者ギルドってどうすれば加入出来るんでしょうか。」
「まあ、推薦受けて加入試験に合格すれば入れるけど⋯。」カーラさんはそう言って私の目をじっと見つめる。「アンタに覚悟があるってなら紹介してやらない事も無いよ。」
どうしよう。でも戸籍も無く、帰る家も無い私がこの世界で生きていくには他にどうすればいいのか皆目見当もつかない。それに女神様の言った、勇者を探す使命だって冒険者になった方がきっと見つけやすいはずだ。
正直言って覚悟なんて全然無い。けど⋯。
「やります!試験を受けさせてください!」
巡る世界の異邦人 リョウフミオ @inumaru00
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