第5話 名剣デュランダル
ユイルと同様、親のいないアレクは、ルーマ市内の老師の館に同居している。
ユイルは修行を終えた夕方、湯浴みをさせてもらうために、老師の邸宅に立ち寄ってから、ルーマ市外のガリア村の自宅へ帰るのが日課になっていた。
ユイルが屋敷に立ち入ると、食堂で夕食を済ませ、テーブルに座って食休みをしていたアレクが声をかけてきた。
「ユイル、お前、また陽に焼けたな」
「一日中、老師やアレクと特訓だからね」
「お前、夜遅くにも、色々試しているだろう?」
「まあね」
「頑張っているな」
アレクの言葉に、ユイルは顔を赤らめた。
「さて、俺ももう少し稽古してから休むとするか」
アレクが立ち上がり、つぶやく。
「ユイル」
「ん?」
「あまり無理はするなよ」
「ア、アレクも!」
顔を紅潮させたまま、ユイルは応じる。
外へと出て行くアレクを、ユイルは見送った。
ユイルにとって、アレクはライバルだが、今はまだ憧れの存在だった。
いつものように浴場に入って、ユイルは湯浴みをした。上半身、下半身とも、良く陽に焼けている。
入浴を終えたユイルは、腰布を巻いて裏庭に出た。涼しい風に当たり、火照った体を冷やす。
井戸の水をくみ上げ、ひしゃくですくって一気に飲み干す。
プハァッ、と息を吐き、思わず「旨い!」と言ってしまうユイルだった。
中庭で両手に持った双剣を素振りしていたアレクは、脳裏にユイルの修行の情景を思い描いていた。
(俺は知っている。あいつが、毎日朝から晩まで鍛錬していることを。本当に毎日──。
雨の日も、風の日も、大嵐のときでさえ……)
全力で剣を振るっていたユイルの姿を、アレクは思い浮かべた。
「不気味だな」
アレクは一人ごちた。
「段々、剣速が上がって来ていた……」
いつかは自分を、と、ふと考えて、アレクは大きくかぶりを振った。
「いや、それはない。絶対にない。ユイルは、まだ片手剣しか使えないが、俺は二刀流。それに俺には、誰にも知られていない切り札があるのだから……」
アレクは無意識に唇の片端を上げた。
眼帯に隠されていない右の赤い瞳が、妖しい輝きを放つ。
(俺は負けない──)
隻眼の剣士にとって、それは過信ではなく確信であった。
あるとき、老師はユイルとアレクを屋敷の自室に呼び、二人に一振りの剣を披瀝した。
七宝で装飾された見事な鞘。黄金でできた束にも、大きな宝石が埋め込まれている。
老師が剣を抜く。
その刀身は漆黒に輝いており、いかなる名工の手によるものか、空気すら切り裂けるのではと思えるほど、鋭利な刃を誇っていた。
「この剣は、デュランダルという」
老師が語り始める。
「騎士になってから手に入れ、幾多の戦場で数多の敵を打ち倒してきた。わしが手にするはるか以前から、多くの剣士の手を経てきた名剣じゃ」
老師は、剣を鞘に戻した。
「わしがもし死んだなら、わしの後継者となるアレクとユイル、お前たちのどちらかに、この剣を委ねる。そのとき一番強い者にな」
ユイルとアレクは、思わず視線を交わした。
どちらかが、この剣を手に入れる。
デュランダルは、剣士ならば誰もが使いたいと願うほど、魅力的な剣だった。
いつか、雌雄を決するときが来る。ユイルとアレクは、胸に闘志を秘め、視線をぶつけ合ったのだった。
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