第4話 老師の教え
老師の指導は、ユイルが考えていた以上に過酷だった。
腕立て、腹筋、背筋、膝の屈伸を、何度も何度も繰り返す。さらに、ルーマの都市外周を、何度も周る走り込み。
そして、一から剣の扱い方を学んだ。振り下ろす。斬り上げる。なぎ払う。刺す。突く。断つ。それらの多様なバリエーションを。
加えて、老師は敵の攻撃を避けるために、視力を鍛えることを重視した。
老師がユイルに施した特訓の一つに、石投げがある。
右か左か。老師の手から石が離れた瞬間に知覚して、その軌道を予測し避けるのだ。
ユイルの回避確率が上がってきたところで、老師は予想外の手を放った。
石が真ん中に飛んできたのだ。
何とか避けたユイルに、老師は言った。
「真ん中を狙ってくることもあるということじゃ。気を付けるが良い」
あるとき、またど真ん中を狙われた。知覚はできたが、スピードが速く、左右どちらにも飛ぶ暇がない。
ユイルは、その場にしゃがんで避けた。
「そうじゃ、それで良い」
またあるとき、これまでで最速の石が真ん中に飛んで来た。しゃがんでも間に合わない。
一瞬でそう判断して、とっさに両手で受け止める。
老師は、笑みを浮かべて告げた。
「そうじゃ、それが正解じゃ」
こんな事もあった。
地道な訓練が続き、自分がどれだけ強くなったのかユイルが疑問に思い始めた頃、老師が現れ、彼の心を見透かしたように言った。
「良かろう、ユイル。少し遊んでやるとしよう」
ダッ、と前進してきた老師の拳が、あっという間にユイルの顔面に迫る。
(速い!)
やられる、と思った瞬間、額を軽くチョンッ、と小突かれた。
「反応が鈍い。マイナス10点じゃ」
そして、老師の厳しい採点が始まった。
大きく右足で蹴ろうとしたユイルの攻撃を、老師はスッ、としゃがんでかわす。
そして、軸足となったユイルの左足を払った。体勢を崩すユイル。
「予備動作も大き過ぎる。マイナス15点」
「くそ!」
右のストレートを放ったユイルの腕を、老師が左脇で捕らえる。利き手を封じられた格好だ。
「右手の自由を相手に奪われたな? マイナス25点じゃ」
きめられた右腕は、ピクリとも動かせない。左手で反撃する気力は失せていた。
「しめてマイナス50点で、今のお前の点数は50点じゃ。100点満点中な。ユイルよ、もっともっと修行に励むが良い」
老師が断じる。
「ちなみにアレクサンダーは、わしに右腕を取らせなんだ。しめてマイナス25点で、75点じゃった。100点満点中な」
25点の差。それが、今のユイルとアレクの実力の差だった。
失点を埋めていかなければ──ユイルは一層の努力を決意した。
「次は必ず、点数を上げて見せます!」
ユイルの言葉に、老師はニコ、と笑った。
「根性だけは一人前じゃな。特別に、5点やろう。もっともっと強くなれ──我が愛弟子よ」
ユイルにとって、老師はかけがえのない、本当に得がたい師匠であった。
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