第1章一節・魔法少女トゥリトプシス
「大丈夫ぷわ?怪我痛くないかぷわ?お水飲むぷわ?」
謎の生命体は、少し慌てているような様子で私にそう尋ねた。(え、えっ?なにこれ、ぬいぐるみ?宇宙人?ロボット?幻覚?私なんで生きてるの?てか、体痛くなくなってるし。え、どういう技術?)あまりにも非現実的な状況と自分の状態に疑問が止まらない。情報量が多すぎて頭がパンクしそうだった。状況を理解できずに固まったままでいると、謎の生命体が急にハッとしたような顔をして口を開いた。
「あ、ごめんなさいぷわ。自己紹介がまだだったぷわね。ボクはジェリン!地球から遠く離れた@:k@2ていう星からキミをスカウトしに来たぷわ!」
星の名前を聞き取ることはできなかった。いや、それ以前に気になることが多すぎる。
「ち、地球から遠く離れた星?!宇宙人なのキミ?てかスカウトって何?攫いに来たの?!」
大声でまくし立てる私を見て、ジェリンは少し慌てた様子で説明を始めた。
「えっと、キミのことを攫いに来たわけじゃないし、キミに危害を加えるつもりはないぷわ!僕はただ、キミを魔法少女にスカウトするためにやってきただけぷわ!」
「ま、魔法少女なにそれ?!てか何言ってるの?魔法なんてあるわけないし……」
続きを話そうと瞬間、ジェリンが急に慌てた様子で話を遮る。
「あっ!ち、ちょっと付いてきてぷわ!アイツが来ちゃうぷわ!」
そう言った直後、ジェリンは私の手を引いて近くの公園の遊具の裏に連れて行った。
「ちょっと、なにするの?!まだ話は……」
言葉の続きを紡ごうとするが、ジェリンが私の口をふさぐ。そして、その瞬間入口の方向からズル…ズルと何かを引きずるような音が聞こえた。なんだか嫌な予感がして、遊具の後ろからこっそり様子を覗いてみた。
そこには、私の身長の何倍もありそうな長い手を引きずりながらキョロキョロと辺りを見渡している長身の化け物の姿があった。(な、なにアレ…てか、あの手もしかして私を襲ったアイツ?)初めて見る異形の化け物の姿に怯えていると、ジェリンがこっそりと私の耳元で囁いた。
「……アイツはガメノ僕たち…魔法少女たちの敵ぷわ。」
「て、敵?なんであんなのが地球にいるの?あんなのアニメの世界でしか見たことないよ…」
「信じられないのも無理はないぷわ。でも、今の状況は紛れもない現実ぷわ。どうか今の状況を受け止めてアイツを倒すために魔法少女になって戦ってほしいぷわ!」
「戦うって…嫌だよ!痛そうだし、そもそも私まだ信じてないから!」
「そこをなんとかぷわ!もし今ここでガメノを倒さなかったらキミの周りの人たちまで巻き込まれてしまうぷわ!家族やお友達が傷ついているのを見るのは嫌ぷわよね?」
「そりゃあ、嫌だけど…でも、やっぱり怖いよ…」
非現実的な状況を受け止めきれず、感情がぐちゃぐちゃになって涙がこぼれる。すると、ジェリンが触手のような手で私の涙をぬぐった。そして語り掛けてきた。
「誰だって最初はそうぷわ。実際、ボクもちょっと怖いぷわ。また、魔法少女を死なせちゃったらどうしようって。でも、キミなら絶対大丈夫ぷわ!だから勇気をだしてほしいぷわ!お願いぷわ!」
そう、必死になって懇願してきた。だんだん気持ちが揺らいでくる。魔法少女になって、大切な人たちを守りたいという気持ちと、信じられない、戦いたくないという気持ちがぶつかり合っている。自分はどっちに従うべきなのだろうか。必死に考え、迷っているとどこからともなく誰かの声が聞こえてきた。
「私ね、おっきくなったらみんなのことを守れるすっごいヒーローになるんだ!」
それは幼いころの私の声、大好きな家族や友達を守りたいと願っていたころの私の声だった。この声はきっと恐怖や混乱からくる幻聴なのだろう。でも、今この状況であの声が聞こえたということは。ヒーローになりたいという無垢な願いを思い出したということは、きっとそれが私の本心だ。だったら、もう迷うことなんて何もない。
「…わかった。今回だけだよ」
「ほ、ほんとぷわ?嘘じゃないぷわ?」
「嘘じゃないよ!ただ、急にみんなのことを守りたくなっちゃっただけ。」
「そうぷわか…ありがとぷわ。」
ジェリンは顔を赤らめてお礼を言い、その後またいつもの調子に戻って話し始めた。
「それじゃ、さっそくガメノをやっつけるために変身するぷわよ~」
「え、そういえば変身ってどうやるの?」
「えっと、それはこれを使っちゃうぷわ!」
そう言うとジェリンはどこからともなく、真っ白な固形物がたくさん入っている赤色の瓶を取り出した。
「この魔法のラムネを1粒食べるぷわ!」
「ら、ラムネ?こんなもので変身できるの?まぁ好物だから食べるけど…」
そう言いながら瓶を受け取り、中のラムネを取り出し食べる。味は普通においしいラムネだった。ラムネをしっかりと味わった後、飲み込む。その瞬間、視界がたくさんの小さな泡に包まれる。(えっ!?何々何なの?)びっくりしていると次第に泡は収まっていき、元の公園の風景が見えた。
「よし!変身完了ぷわね!」
「え。もう終わったの?何か私変わってる?」
「がっつり変わっているぷわね!失敗しなくてよかったぷわ~!あ、今鏡出すぷわよ。」
そうして、私は鏡越しに今の自分の姿を見た。
「え、誰これ。私?ホントに私?」
「そうぷわ、可愛いぷわ~!」
今の私は、ベレー帽のような帽子と、赤色で半透明のリボンの装飾が施されたふわふわのワンピース、そして手にはフェンシングで使われていそうな細い刀身の剣のようなものを握っていた。
「これが、魔法少女の姿?」
「そうぷわ!え~っと名前は…」
暫く考え込むような素振りを見せた後、パッと顔を輝かせてジェリンは口を開く。
「魔法少女トゥリトプシスぷわ!」
「とぅ…何?なんかめっちゃ難しい名前じゃない?意味は?」
「まぁまぁ細かいことはいいぷわ!さ、あの大きなガメノをやっつけに行くぷわ!」
「わ、わかった。」
緊張しながら、返事を返す。きっと戦いは痛く、苦しいものになるだろう。下手すれば、死んでしまうかもしれない。(…今更そんなこと考えてもしょうがない、自分で決めたことなんだから!頑張れ、私!)そう自分に言い聞かせ、恐怖ですくむ足を半ば強引に動かした。
「ち、ちょっと待ちなさい!」
魔法少女アニメやヒーローアニメでお決まりのセリフを大声で口にだし、ガメノを呼び止める。すると私の声に反応したのか、くるりと振り向き私のことを見つめる。
暫くお互い見つめあう、なんだか時間がゆっくりになったように感じる。さっきまで怖いと思っていたはずなのに、今は不思議と落ち着いていた。何故かはわからない。(いや、考える必要なんてない。今は目の前の敵に集中するべきだ!)こうして私の、魔法少女トゥリトプシスの残酷で無慈悲な戦いが始まった。
トゥリトプシスの夢 夢月みくる @arumihoiru1021
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