トゥリトプシスの夢
夢月みくる
プロローグ:始まり、そして終わり。
二〇××年七月午後二十三時、
部活の居残り練を終えた私は、一人電車に揺られながらウトウトしていた。きっと疲れているんだな、そう思いつつぼーっと車内に貼られている広告のポスターを眺めているとスクールバックの中からブーッッとスマホのブザー音が聞こえてきた。こんな時間に何だろうか、バッグのファスナーを開けスマホを取り出すと、ホーム画面に【MIZUNA♡からメッセージが届きました。】という通知が映し出された。アプリを起動すると、
『ベニ、部活の居残り練お疲れ様~!』
という労いのメッセージが来ていた。ちなみにミズナは私の親友で、お互いにベニ、ミズとあだ名で呼び合うほど仲がいい。(わざわざお疲れ様メールをおくってくれるなんて…)少し感動しながら返事を打ち込んだ。
『わざわざありがとう。ミズがこんな時間まで起きているなんて珍しいね、てかなんで今居残り練終わって帰ってるってわかったの?』
『ベニと一緒に居残り練してた
『確かに優しいよね、コハル。この前なんて私に勉強教えてくれたもん。マジ女神だよね~』
『そうそう!ほんとに何でもできるよね~あの子、もしかして……なにか魔法をつかっているんじゃ?!』
『もう、冗談言わないの~魔法なんてあるわけないじゃん!』
『えへへ、ばれたか。じゃあ私もうそろ寝るね~グンナイ!』
『は~い、おやすみー』
最後のメッセージを打ち込み終えると同時に私の家の最寄り駅に到着したアナウンスが鳴ったので慌てて電車から降り、ホームの階段を下っていると少しのめまいの後視界が暗転した。慌てて手すりにつかまりじっとしていると、視界はいつの間にか元の風景に戻っていた。(びっくりした……もしかして貧血?)焦った私は、急いで階段を駆け降り、改札を抜けた先にあるベンチに腰をかけ、一息つく。私は幼いころから常に薬を所持しなきゃいけないほどひどい貧血持ちなのだ。しばらく休んだ後、バッグから常備薬を取り出し水筒の水と一緒に流し込んだ。そして、秒針が丁度真上を指したとき(もう大丈夫かな。)そう判断し、ベンチから立ち上がって歩き出す。
夏特有の生暖かい風が頬を撫でる。しばらく歩いて、人気が全くない高架下付近を通りかかったとき。私の視界の隅に真っ黒なナニカが映った。早く帰らなきゃいけない。そう思っていたのに足を止めてしまった。そして、そのナニカが居るであろう路地裏の方向に視線を向け、目を凝らした瞬間。路地裏から真っ黒で巨大な手が出てきて、まるで頬にビンタをかますようにして私のことをものすごい勢いで弾き飛ばしてきた。一瞬のことだった。弾き飛ばされた私は高架下のフェンスに激突した。トラックに思いきり轢かれたような激しい衝撃と、全身の骨が粉々に砕けているかのような痛みに襲われる。痛すぎて、声すら出なかった。(なに……あの、手。あ、ヤバ、い、しきが)視界がぼやけていく。地面と自分の境界線が溶けていくような感覚がした。もう、終わりか、案外早かったな。視界が真っ暗になった瞬間
「あきらめちゃダメぷわ~!」
そんな言葉が、聞こえた気がした。
____(あれから、どのくらい時間がたったんだろう。)そんなことを考えていると突然、急速に視界が開けた。街灯の淡い光が眩しくて、思わず目をつむる。そして再度目を開けると、
「あ、おきたぷわ、よかったぷわ~!」
私の目の前にクラゲのぬいぐるみのような、いかにもアニメから飛び出してきましたよ感あふれる生命体がニコニコと笑顔を浮かべながら浮いていた。
「……へっ?」
死にかけたというシリアスな状況にまったく似合わない、拍子抜けした声が私の口からこぼれた。
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