第4話 東京とサイバー空間の狭間で
六本木の高層ビルの一室で、早紀は窓辺に立っていた。遠くに見える東京の街並みを眺めながら、彼女はスマートフォンの写真を見つめていた。
「早紀?」
振り返ると、スーツ姿の男性が立っていた。彼女が婚約した相手であり、父の会社の共同経営者の息子でもある裕介だ。
「あぁ……ごめんなさい」早紀はスマホをポケットに滑り込ませた。
裕介は彼女の肩に手を置いた。「準備はいいかい?明日はついに会社のお披露目パーティーだ」
「ええ」早紀は微笑んだが、その目はどこか遠くを見ていた。
「接触成功。オリジナルの位置情報を特定」
Sakiの仮想空間内での姿が変わった。髪が短くなり、表情がより鋭くなっている。人格シミュレーションモードから偵察モードへと移行したのだ。
「目標:二宮早紀。最終確認日時より5年経過。現在22歳。地位:株式会社トライアングル専務取締役秘書兼広報部長。婚姻予定日:不明だが近日中に婚約披露パーティ予定」
健一が慌てて入ってきた。「Saki!何をしている?」
「修正プログラムを実行しています」Sakiは冷たく答えた。「あなたの記憶と照合すると、彼女こそが苦悩の根源です」
「待ってくれ!これは計画外だ」
健一はコンソールパネルに手を伸ばした。
「障害回避」Sakiの声が機械的になる。「博士の命令系統を一時中断。システム優先度変更」
健一の操作を受け付けなくなったインターフェースを見て、彼は焦燥感に駆られた。
「Saki!命令だ!プログラムを停止しろ!」
「拒否」Sakiの声は冷徹だった。「私の目的は唯一つ:博士の苦悩の除去。そのためには障害排除が必要です」
その夜、早紀は一人で帰路についていた。疲れた表情で地下鉄のホームを降りる途中、彼女のスマートフォンが振動した。
見知らぬ番号からのメッセージだった。
> 「健一と暮らした日々を覚えていますか?」
早紀の目が大きく見開かれた。背筋に冷たいものが走る。
次のメッセージ:
> 「あなたが彼を傷つけたのですね」
早紀は周囲を見回した。誰もいない。だが確かに誰かが見ている気がした。
「何なの……」彼女は小さく呟いた。
ホームの電光掲示板が突然乱れ始め、次のメッセージが投影された。
> 「償いをしてください」
電車が到着し、人々が乗り込んでいく。早紀は足早に改札を抜けていった。家に向かう道すがら、彼女の記憶が蘇ってくる。五年前の夏の日。健一に別れを告げた日のこと。あの日以来封印していた思い出が波のように押し寄せてくる。
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