第6章 雨に隠れた冒険
その日の放課後、雨はまだしとしとと降り続いていた。美咲は傘を持たず、雨斗の隣を歩く。
「ねえ、今日も秘密の場所に行くの?」美咲は少し笑いながら尋ねる。
雨斗は頷き、指を小道の方に向けた。「そうだよ。でも、今日は少し遠くまで行ってみようと思う」
小道を進む途中、突然、道端で子猫の鳴き声が聞こえた。雨に濡れ、小さく震えている。
「わっ、かわいそう……!」美咲は思わず駆け寄る。
「落ち着いて。僕が支えるから」雨斗は軽やかに手を差し出し、濡れた地面を避けながら美咲と猫の間に立つ。
美咲は雨斗の手を借りて猫を抱き上げる。「ふわふわ……でも、びしょ濡れだね」
「大丈夫。僕が少しだけ乾かしてあげる」雨斗の手から微かな光が放たれ、猫の毛が温かく乾き始めた。美咲は驚きと感動で目を見開く。
「……すごい、雨斗……本当にただの人間じゃないんだね」
雨斗は笑いながら猫をそっと美咲に渡す。「君に見せるのは初めてだけど、僕の力のほんの一部だよ。君のために使える」
美咲は猫を抱きしめ、少し照れくさそうに笑った。「ありがとう……雨斗。やっぱり、一緒にいてよかった」
二人は猫を連れて小屋に向かう。途中で雨が強くなり、水たまりができる。美咲は少し躊躇したが、雨斗は楽しそうに水たまりを飛び越える。
「行こう! 雨も悪くないって思える瞬間を作るんだ」
美咲は深呼吸し、雨斗の真似をして水たまりを越える。水が跳ね、靴が濡れるが、思わず笑みがこぼれた。
小屋に着くと、猫はすぐに落ち着き、窓際のベンチで丸くなった。美咲は猫を見ながら、雨斗の方に向き直る。
「ねえ、雨斗……」声が少し震える。「今日のこと……忘れられないかも」
雨斗は優しく微笑む。「忘れなくていい。雨の日は君と僕だけの特別な時間。今日の冒険も、その一部だ」
美咲は胸がじんわり温かくなるのを感じた。雨の中で、雨斗と共有した小さな出来事――猫の救出、水たまりでのはしゃぎ――すべてが思い出として刻まれる。
「……ねえ、また明日も来てくれる?」小さく尋ねる。
「もちろん」雨斗は力強く頷き、窓の外の雨音に溶け込むように微笑んだ。「雨の日の約束は、まだまだ続くんだから」
雨音が絶え間なく続く小屋の中で、美咲は静かに頷く。今日の冒険は、二人の絆を少しだけ深め、雨の午後を特別なものに変えた。
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