第4章 雨に揺れる友情と小さな波紋

翌週も雨は続いていた。美咲は教室で窓の外を眺めながら、ふと思う。昨日の小屋のことを思い出すと、胸の奥がほんのり温かくなる。


「美咲、今日も行こう」雨斗が廊下から現れる。制服は相変わらず濡れていない。微笑みながら差し出された手に、美咲は少し戸惑う。


「うん……でも、ちょっとだけ」小さく答え、手を取った。


雨斗と一緒に校庭を抜け、秘密の小屋に向かう途中、突然、校門の方から声が聞こえた。


「ねえ、美咲、ちょっと聞いてよ!」声の主はクラスメイトの優奈。明るく、ちょっとおしゃべりな性格だ。


美咲は一瞬躊躇した。雨斗が隣にいるのに、どうして声が届くのか不思議でならなかった。


「優奈……ごめん、今ちょっと無理」美咲は小さく答え、歩みを止めようとする。


「え? なんで? ねえ、雨の中、あの子と一緒にいるの?」優奈はにやりと笑った。


美咲の頬が赤くなる。「べ、別に…ただ歩いてるだけ!」必死に否定するが、声が少し震えていた。


雨斗は美咲の肩に手を置き、静かに微笑む。「気にしなくていい。君の世界は君だけのものだから」


美咲はその言葉に少し安心し、優奈の声を背にして歩き出す。秘密の小屋に近づくにつれ、雨音が二人を包み、外界の雑音は徐々に消えていった。


小屋の中に入ると、雨斗は窓際のベンチに座り、美咲を招いた。「ここは、君と僕だけの時間。誰にも邪魔されない」


「うん……」美咲は静かに座る。外の世界で少し動揺した心も、雨音と雨斗の存在で落ち着いていく。


「ねえ、美咲」雨斗が小声で話し始める。「君は、友達にどう思われるのが怖い?」


美咲は少し黙って考える。「……ううん、怖いっていうか、恥ずかしい。こんなこと、誰にも知られたくないっていうか」


雨斗は静かに頷く。「分かる。でも、僕がここにいるのは、君が誰に見せてもいい自分じゃなくてもいい場所だから。君の本当の気持ちを隠さなくていい」


美咲は息をつく。窓の雨粒が光を反射し、小さな虹のように揺れる。心の奥に少し光が差し込む気がした。


「ありがとう、雨斗……」小さく、でも確かに言葉が出る。


その瞬間、外の雨音に混ざって微かな風の音。窓の外を見ると、雨の中を歩く影が見えた。誰かが、こちらを見ている――そんな錯覚さえする。


「君の世界はまだ守らなくちゃいけない場所があるんだね」雨斗は静かに言う。「でも、大丈夫。僕がいる限り、雨の日は君の味方だから」


美咲は小さく頷き、心の奥で少しだけ勇気を感じた。雨の日の小さな波紋は、二人の信頼を確かめるための前触れに過ぎなかったのかもしれない。


雨音が絶え間なく続く小屋の中で、二人は静かに時間を共有する。友情、信頼、そして少しずつ芽生える特別な感情――すべてが雨に揺れながら形を作っていく。

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