第3話 ただの言い訳
その時だった。
「君。そこはグレーゾーンだぞ。早く離れなさい」
不意に背後から声をかけられ、心臓が跳ね上がる。
「ここは罪には問わないが、厳重注意になるエリアでね」
振り返ると、声の主は警官だった。
ある程度整った顔立ち。
真っ黒な髪と、同じく黒い瞳。
年齢は二十代後半から三十代前半といったところだろうか。
左手の薬指には、結婚指輪が光っていた。
――終わったか?
緊張で舌がうまく回らない。
喉がからからに乾く。
(もし、レッドラインを越えたことがバレたら……)
考えただけで、背筋に冷たいものが走る。
俺は視線を下に落としたまま、必死に頭を回転させた。
「す、すみません……」
声が少し裏返る。
「ボールを蹴ったら、こっちまで転がってきちゃって……。
すぐ、離れます」
自分でも苦しい言い訳だと思った。
だが、それしか思いつかなかった。
警官は一瞬、俺の顔をじっと見つめた後、
ふっと表情を和らげた。
「そうか。気をつけなさい」
そして、名乗る。
「僕は小宮。小宮成政巡査だ」
その穏やかな口調に、わずかに肩の力が抜ける。
「君の名前は?」
「……天野です」
一拍置いて、はっきりと言った。
「天野玲です」
塔から始まった日常の崩壊 レイ @ren0324
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