第2話 保身のためには
好奇心。
ただそれだけが、俺の身体を突き動かしていた。
頭の中では必死に自分を弁護している。
「近づくだけだ」
「中には入らない」
「様子を見るだけ」
そう言い聞かせながらも、胸の奥では分かっていた。
――確かめたい。
俺は自衛隊の後を追う形で、一線を越えた。
罪になるエリア。
通称、〈レッドライン〉。
正式名称でもなければ、地図に載っているわけでもない。
だが、この一帯をそう呼ぶ理由は単純だった。
――越えたら、もう後戻りできない。
自衛隊員たちは次々と塔の中へと吸い込まれていく。
巨大な入口が、無言で人を飲み込んでいく様は、まるで生き物の口のようだった。
俺は唾を飲み込み、手汗をズボンで拭う。
(じゃあ……怪物は本当にいるのか?)
考えが止まらない。
(もし自衛隊の目的が「怪物の存在確認」だけだったらどうする?
いたと分かった瞬間、すぐに引き返してくるかもしれない)
背筋が冷たくなる。
(そうなったら……俺は現行犯だ。
言い訳もできない。少年院行き、一直線)
その想像が、恐怖となって全身を貫いた。
俺は足早に走り出す。
塔を背にして、ただ逃げるように。
その時だった。
――悲鳴。
男の声。
はっきりとした、恐怖と苦痛が混じった叫び。
一瞬、足が止まりそうになる。
だが俺は振り返らなかった。
振り返ってはいけないと、本能が叫んでいた。
俺は走り切った。
ただ無我夢中で、ひたすら前へ。
あの塔から、できるだけ遠くへ。
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