第3話 メリクリ後


 クリスマスの翌朝はバスに乗った。


 (白ヤギさん…今日は一頭か)


 バスではあまりスマホを触らないようにしている。

外を見ている方が面白いからだ。

 だって途中に、いきなりヤギがいたりする。

牧場でも何でもない場所で、ヤギが草を食んでいるのだ。


 普通にファンキーな光景だと思う。

 以前は民家があったであろう場所、ほぼ道端にヤギがいる。

まず更地になり、近隣の別の家が譲り受けるか借り受けるかして、

雑草生い茂る空地になった。

 そこで何故かヤギが飼われている。最低二頭はいるはずだ。

ペットなのか家畜なのか。そこまでは知らない。

 ただ、草地がどんどん拡大している気はする。


 (あ。またやってる…)

 

 またどこかの旧い木造家屋が、取り壊されようとしていた。

 いつ通っても、バス道沿いに重機が出張って来ている。

 そして途中のバス停近くにには、またも新たな空地が出現していた。

どうやら撤去されたのは、椿があったお家みたいだ。

 たぶん、岩根絞だったんだろうな。あの白っぽい花。

名も知らぬ内に、あの木が永久にこの地上から姿を消してしまった。


 美しいもの。見て嬉しいもの、

 覚えておきたいものが、どんどん消えて行く。


 私は道路の反対側のアパート群を見た。

前は蓮池だった場所だ。これも気が付いたら埋め立てられていた。

何年も幾夏もバスのガラス窓越しに葉っぱばかりを見続けて、

ようやっと白い蕾を発見した矢先だった。


(途中下車しておけばよかった…)


 せめて一度くらい、咲いた花を間近で見ておけばよかった。

あそこが、プレハブのキャラメルボックスみたいになる前に。


(また来年も花は咲く。だから次の夏にゆっくり見よう)

 たくさん写真も撮ろう。


 年年歳歳、花相似たり? 人だけは同じからず?

いいや。花も同じじゃない。

 うっかり油断していたら、永遠にその「次」が

来なくなってしまったのだ。


 

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