第八章 時を越える恋
雪が静かに舞う朝、紗希は校庭のベンチに座り、深く息を吸った。
手のひらには、あの日からずっと握りしめてきた古い本がある。未来と過去、今が交錯する重さを感じながらも、胸の奥には確かな温もりがあった。
「紗希、準備はいいか?」
颯真が隣に座り、少し緊張しながらも強い眼差しで紗希を見る。
「うん……もう迷わない」
紗希は決意を込めて頷く。手の震えはほとんどなく、胸の中で光が差していた。
その瞬間、図書館で手にした本が微かに光を放つ。文字が宙に浮かび、過去と未来の声が交錯するように紗希の耳に届いた。
「紗希、勇気を出して……時間はあなたの手の中にある」
未来の自分の声だ。
「怖くない……颯真と一緒なら」
紗希は颯真の手を握り返す。二人の掌の温もりが、時間の隔たりを超えて未来へと力を送るようだった。
二人は校舎の影に隠れながら、過去で迷いそうになった人々に声をかけて回る。小さな勇気と正直な気持ちが、時間の歪みを少しずつ修正していく。
「君の選択で、未来は変わるんだ」
颯真の言葉が、紗希の胸に響く。
そして、最後の瞬間――
二人は校庭の中心で立ち止まる。目の前には、自分たちの未来を揺るがす大きな分岐点がある。
「紗希、どうする?」
颯真が静かに尋ねる。
紗希は深呼吸し、胸の奥にある全ての感情をかき集める。
「私……未来も過去も怖いけど、逃げない。颯真と一緒に歩く」
その瞬間、空気が揺れ、光が二人を包む。時間の流れが安定し、過去も未来も今も、穏やかに結びつく感覚が紗希の全身を満たした。
雪の中で、颯真が紗希を見つめ、微笑む。
「よくやったな、紗希」
「うん……ありがとう、颯真」
二人は自然に手を取り合い、時間を超えた確かな絆を感じる。
夕陽が雪を赤く染め、世界は静かに輝く。
紗希の胸には、恐れではなく希望があった。過去も未来も、二人で乗り越えられる――その確信が、心の奥で静かに燃えていた。
そして、紗希は小さく呟いた。
「時をかけても、やっぱり……恋は変わらないんだね」
颯真は頷き、優しく笑った。
「そうだな……君と僕なら、どんな時間でも、ずっと一緒だ」
二人の笑顔は、雪に溶け込む光となり、未来へと静かに続いていった――時を越える恋の物語として。
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