第五章 時間の影

ある日の放課後、紗希は学校の廊下で不思議な違和感を覚えた。

見慣れた景色が微かにずれている――掲示板の掲示物の位置、机の並び方、廊下の人々の表情。


「……なんで?」

小さく呟いた紗希の声に、冷たい風が答えるように廊下を吹き抜けた。胸の奥に、時間の歪みを感じる。


その時、颯真が走って駆け寄ってきた。

「紗希、大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「う、うん……でも、何かおかしいの……時間が、変わってるみたいで……」

紗希の手が本能的に胸を押さえる。心臓が速く打ち、息が荒くなる。


颯真は紗希の手を握り、真剣な目で言った。

「落ち着け。俺たちなら、きっと解決できる」


二人は図書館に向かい、あの古い本を開く。

ページをめくると、昨日までの文章が微かに変化していた。

「ここ……昨日とは違う……」

紗希は指で文字をなぞりながら、心がざわつくのを感じた。


颯真は顔を近づけ、本を覗き込みながら静かに言う。

「これは……過去の誰かが、何かを変えた痕跡かもしれない」

紗希の胸に冷たい恐怖が走った。過去に干渉することで、未来が壊れるかもしれない――その可能性を直感的に理解したからだ。


「どうすればいいの……?」

紗希の声はかすれ、涙が頬を伝う。

颯真はぎゅっと紗希の肩に手を置き、優しく囁いた。

「一緒にやろう。怖くても、二人で立ち向かえば、きっと大丈夫」


その夜、紗希は夢で過去の自分に出会った。

まだ幼い自分、迷う自分、未来を知らない自分――それらが重なり合い、紗希の心を揺さぶる。


「私……どうすれば……?」

夢の中で、紗希の声は虚空に消える。だが、颯真の笑顔が浮かび、手を差し伸べる。

「君は一人じゃない。どんな時間も、僕たちで越えていける」


紗希はその言葉にすがるように手を伸ばす。

夢から覚めた瞬間、心の奥で決意が光を帯びた――

「未来を守るために、過去も、今も、逃げずに立ち向かう」


翌日、二人は動き出す。過去の小さな変化を修正し、未来の自分たちを守るために。

その行動が、少しずつ紗希の時間を、そして颯真との絆を強くしていく――時間の影を照らす光となりながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る