第四章 揺れる選択

数日後、紗希は学校の廊下で、颯真と並んで歩いていた。

風が冷たく、冬の匂いが鼻をかすめる。空には低く灰色の雲が垂れ込めていて、胸の奥に重さをもたらした。


「ねぇ、紗希……」

颯真が静かに口を開く。

「もし、未来を変えられるとしたら、君はどうする?」


紗希は一瞬立ち止まり、言葉を探す。

「……変えたい。だけど、変えたら、今の私や颯真との時間も変わっちゃうかもしれない」

胸の奥で、過去と未来が押し合うような感覚が湧き上がる。手のひらが汗でしっとりと湿る。


颯真は少し間を置いて、低い声で言った。

「変えることと、守ること、どちらも怖いよね。でも、僕は君が選ぶなら、どんな選択も受け止める」


その言葉に、紗希の心臓はぎゅっと締め付けられる。温かさと同時に、痛みが広がる。未来を知る重みが、胸にのしかかっていた。


放課後、紗希は一人図書館に座り、あの古い本を開く。

ページをめくるたび、文字が微かに光って見える。まるで彼女の心に語りかけるように――


「選ぶことを恐れるな。未来は君の手の中にある」


涙が自然に頬を伝う。

「怖い……でも、逃げたくない」

紗希の声は震え、空気に溶けていった。


その時、颯真がそっと肩に手を置く。

「紗希……一緒に考えよう。どんな未来でも、二人なら乗り越えられる」


紗希は顔を上げ、颯真の目を見る。そこには真剣さと、揺るぎない信頼があった。

「ありがとう……私、頑張る」

「うん、僕も頑張るから」


夕陽が図書館の窓から差し込み、二人を柔らかく包む。

紗希の胸に、決意の光が差した瞬間だった。

未来を知ることは怖い。だけど、恐れを越えた先に、確かな希望がある――。


その夜、紗希は再び夢の中で未来を垣間見る。

しかし今度は、颯真と共に立つ自分の姿があり、笑顔があった。

「どんな時も、私は一人じゃない」

心の奥でそう強く思った瞬間、時間の流れがほんの少しだけ揺らぎ、紗希の手に未来のかけらが触れたように感じられた。

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