第三章 未来のかけら

次の日、紗希は教室でいつもよりそわそわしていた。昨日の放課後の出来事が、頭の中で何度も再生される。颯真の言葉が胸の奥で繰り返され、まるで自分の心を揺さぶる鐘のようだった。


「ねぇ、紗希、大丈夫?」

突然、背後から声がかかる。振り向くと、友人の美咲が心配そうにこちらを見ていた。


「あ……うん、大丈夫」

紗希は笑顔を作ろうとするが、心の奥に重い違和感がある。未来から来た自分の影が、どこかこの日常にひそんでいるような気がした。


放課後、図書館に向かう紗希の手には、あの「時をかける恋人」が握られていた。ページをめくると、そこには昨日読んだ文章とは微妙に違う部分があり、文字がまるで紗希に呼びかけてくるかのようだった。


「これって……私へのメッセージ?」

紗希は小さく呟く。胸の奥で、何か大切なものが欠けている気がした。


そのとき、颯真が静かに横に座った。

「またその本?」

「うん……でも、昨日読んだところと少し違うんだ。未来のことが書かれているみたいで……」

紗希は視線を本に落とし、指で文字をなぞる。


颯真はじっと紗希を見つめ、穏やかに微笑む。

「未来って、知りたいようで知りたくないものだよね」

「うん……でも、避けられないなら、向き合わなきゃいけないのかなって」

紗希の声には迷いと決意が混ざり、胸の奥で強い熱が燃え上がる。


「僕がそばにいるから、怖がらなくていいよ」

颯真の言葉は、紗希の胸の不安をそっと包み込む。体の力が抜けるような感覚と、心が跳ねる感覚が同時に訪れた。


夕暮れの図書館、外の光が木漏れ日のように差し込む中、紗希は決意を固める。

「分かった……私、未来のことをちゃんと知る。怖くても、逃げない」


颯真はそっと手を差し出す。

「一緒に行こう。未来を、二人で見つけよう」


紗希はその手を握り返す。掌の温もりが、時間を超えた確かなつながりを教えてくれた。


その夜、紗希は夢の中で自分の未来を垣間見る――

見知らぬ場所、見知らぬ人々、そして自分を待つ未来の選択。そのすべてが、颯真との時間に影響を与えることを直感的に感じた。


目が覚めたとき、紗希は心臓の奥で固く決めていた。

「どんな未来でも、颯真と一緒に歩く」


そしてその決意が、彼女の時間を少しずつ動かし始める――過去と未来、現在をつなぐ不思議な糸を手繰り寄せながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る