第二章 時の重なり
翌日、紗希は学校の図書館で、昨日手にした古い本のことを確かめていた。
ページをめくると、そこには見覚えのある文字が並んでいた――しかし、どこか現在の自分の感覚と微妙に違っている。
「これは……何だろう……」
紗希の声は震えていた。胸の奥に、説明のつかない不安と興奮が入り混じる。指先がページを滑るたび、心拍が早まる。
背後から声がかかった。
「紗希、また本読んでるの?」
振り向くと、颯真が席に座って微笑んでいる。
「うん、ちょっと気になる本があって……」
「どんな本?」
「えっと……『時をかける恋人』っていう……」
名前を口にするだけで、紗希の頬が熱を帯びる。
颯真は興味深そうに目を輝かせた。
「面白そうだね。読ませてくれない?」
紗希は本を差し出しながら、胸の高鳴りを抑えきれなかった。
「う、うん……どうぞ」
颯真がページをめくるたびに、紗希は目を逸らしながらも、心の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
しばらくして、颯真が突然顔を上げ、真剣な表情で尋ねた。
「紗希、もし……時間を戻せるとしたら、戻りたい瞬間ってある?」
その問いに、紗希は言葉を失った。過去に戻った自分自身が、今ここでこうして颯真と話している瞬間――それ自体が答えのように感じられたからだ。
「……うん、あるかも」
紗希の声は小さく、でも確かに響いた。
颯真は微笑み、優しく言葉を続ける。
「じゃあ、今この瞬間も、何か大切な意味があるのかもしれないね」
紗希は胸の奥で何かが震えるのを感じた。過去と未来が交錯する不思議な感覚。彼と一緒にいることで、時間の壁を越えたつながりが確かに存在することを理解したのだ。
放課後、二人は校庭のベンチに座った。夕陽が二人を赤く染め、影を長く引いていく。
「ねぇ、颯真」
「ん?」
「もし……未来のこと、教えてくれるなら、知りたい?」
颯真は少し考えてから、真剣な目で答えた。
「未来はまだ決まっていない。でも、君がどう生きるかで変わると思う。だから、今の君が選ぶことを大切にしてほしい」
その言葉に、紗希の胸はぎゅっと締め付けられる。温かくて、痛くて、でも確かに前に進める力をくれる感覚だった。
「うん……ありがとう」
紗希は小さく頷き、夕陽を見つめる。
風が頬を撫で、二人の間に言葉にならない感情が流れる――それは未来へと続く、静かで確かな約束だった。
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