第6話 管理者狩り


 最初の違和感は、音だった。


     ◆


 宿を出た瞬間、

 街のざわめきが、背後で途切れた。


     ◆


 誰も、近づいてこない。


     ◆


 ジャンは、足を止めなかった。


     ◆


 地上。

 魔素は薄い。


 今の自分は、

 最弱に近い。


     ◆


「……来るな」


     ◆


 そう願った直後。


     ◆


 路地の奥で、

 靴音が重なった。


     ◆


 前。

 横。

 背後。


     ◆


 囲まれている。


     ◆


「管理者様」


 軽い声。


     ◆


 姿を現したのは、

 五人。


 冒険者装備。


     ◆


 だが、目が違う。


     ◆


「用件を言え」


     ◆


「簡単だ」


 男は笑う。


     ◆


「街から、

 消えてもらう」


     ◆


 ジャンは、深く息を吸った。


     ◆


「……誰の指示だ」


     ◆


「聞くまでもないだろ」


     ◆


 境界破壊者。


 もしくは、その支持者。


     ◆


「ここで抵抗されると、

 困る」


     ◆


「静かに、

 連れて行く」


     ◆


 剣が抜かれる。


     ◆


 ジャンは、後退した。


     ◆


 勝てない。


 正面からは。


     ◆


 地上では、

 体が重い。


     ◆


 だが。


     ◆


「……逃げる」


     ◆


 即断。


     ◆


 路地を抜け、

 人通りの少ない方へ走る。


     ◆


「追え!」


     ◆


 背後から、

 魔法の詠唱音。


     ◆


 火球が、壁を焦がす。


     ◆


「っ!」


     ◆


 転がり、

 立ち上がる。


     ◆


 息が、荒い。


     ◆


「管理者狩り、か」


     ◆


 そういうことだ。


     ◆


 境界を守る者は、

 邪魔だ。


     ◆


 だから、消す。


     ◆


 街の外れ。


 廃倉庫が見えた。


     ◆


 飛び込む。


     ◆


 中は、薄暗い。


     ◆


 ジャンは、壁に背をつけた。


     ◆


「……ここまで、か」


     ◆


 その時。


     ◆


 床に、

 淡く光る線が走った。


     ◆


「これは……」


     ◆


 魔素流路。


 地下へ続く、

 古い採掘坑だ。


     ◆


 入口は、崩れている。


     ◆


 だが、

 魔素は――濃い。


     ◆


 追っ手が、

 倉庫に入ってくる。


     ◆


「逃げ場はないぞ!」


     ◆


 ジャンは、

 小さく笑った。


     ◆


「……あるさ」


     ◆


 床を蹴り、

 崩落箇所へ飛び込む。


     ◆


 瓦礫が、崩れる。


     ◆


「追うな!」


     ◆


 だが、遅い。


     ◆


 地下。


     ◆


 空気が、変わった。


     ◆


 魔素が、

 一気に体へ流れ込む。


     ◆


「……来た」


     ◆


 力が、戻る。


     ◆


 筋肉が、軽い。


 視界が、澄む。


     ◆


 背後から、

 追っ手が降りてくる。


     ◆


「っ、動きが……!」


     ◆


 ジャンは、振り向いた。


     ◆


 目が合う。


     ◆


「悪いな」


     ◆


「ここから先は」


     ◆


「俺の、

 領域だ」


     ◆


 一歩。


     ◆


 踏み出した瞬間。


     ◆


 地面が、砕けた。


     ◆


「な――」


     ◆


 次の瞬間、

 剣が弾かれ、

 男が吹き飛ぶ。


     ◆


「化け物か……!」


     ◆


 ジャンは、答えない。


     ◆


 ただ、叩き伏せる。


     ◆


 数分後。


     ◆


 地下は、静かになった。


     ◆


 倒れた冒険者たち。


 命は、取っていない。


     ◆


「……まだだ」


     ◆


 これは、始まりに過ぎない。


     ◆


 管理者狩りは、

 街公認になりつつある。


     ◆


 ジャンは、

 闇の奥を見る。


     ◆


「なら」


     ◆


「俺も、

 やり方を変える」


     ◆


 地上では、弱者。


 地下では、

 誰も手を出せない存在。


     ◆


「……狩られる側から」


     ◆


「狩る側へ」


     ◆


 魔素が、

 静かに応えた。


     ◆


 境界破壊者。


 次は、

 お前の番だ。

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