第14話 いたずらの理由、授業の答え

 アミーカの誕生日から半年が過ぎ、季節はすっかり秋めいてきた頃。

 私たち2年生の教室で、ある「事件」が起きた。


 その日の朝、担任のマチルダ先生が教室に入った瞬間、クラス全員が一斉に立ち上がり、最敬礼で迎えたのだ。


「おはようございます!」


一糸乱れぬ挨拶。私語ゼロ。背筋を伸ばし、質問にはハキハキ答える。


 休み時間には下級生に優しくし、廊下ですれ違う先生には丁寧に挨拶をする。

 いつもの動物園みたいな騒がしさが嘘のように、私たちは「完璧な模範生」を演じきった。


 マチルダ先生は感動していた。

「私の指導がついに実を結んだのね……!」と、目を潤ませていたほどだ。


 先生が教師としての誇りを感じてくれているのが伝わってきて、少しだけ良心が痛んだ。


 ――しかし、その感動は一日しか続かなかった。


 翌日。

 意気揚々と教室に入ってきた先生を出迎えたのは、昨日とは打って変わって、いつも通りの騒がしいクラスだった。


「先生! 今日は約束通り、一日遊び放題だよね!」


 教室に入るなり、クラスメイトたちが口々に叫んだ。キョトンとする先生に、一枚の張り紙が突きつけられる。


『一日模範的な態度で過ごせたら、次の日はまるまる遊ぶ日とします。マチルダ』


 もちろん、真っ赤な偽造だ。書いたのは私。

 先生は「書いてないわよ!?」と困惑し、クラスは大ブーイング。


「約束破り!」「嘘つき!」

 先生が必死に否定しても、私の筆跡偽造が完璧すぎて誰も信じてくれない。


 学級崩壊寸前の空気になり、先生が泣きそうになったところで――私は上を向いて声をあげた。


「でもさー、誰がやったか知らないけど……考えてみたらすごいよねー」


 大きな声に、教室が静まり返る。

 私は席を立ち、みんなを見回す。


「一日遊びって約束だけで、みんなあんなに真面目にできたんだよ? つまり、みんな『やる気になったらいつでもあれができる』ってことでしょ?」


 わざとらしくうんうんと、首を振りながら


「私はついていくのが精一杯だったけど、ほんとみんな凄かったなぁ」


 そう言ってみんなを煽った。

(こう言っておけばいいかな?)


 私の言葉に、アミーカがすぐに続いた。


「そうそう! 私も正直キツかったけど、みんなが頑張ってるから頑張ろうって思ってたら、やりきれたし! すごいよ、みんな!」


 二人の連携プレーで、クラスの空気が変わる。


「まあ、俺たち頑張ったよな」


「意外とやればできるんだな」


 不満の矛先が、「自分たちへの称賛」に変わっていく。


「さっすが2年生! 1年生じゃあこうはいかないね! 私はもう一回1年生やりなおしてこないとかなー」


 私がうそぶくと、クラスメイトたちが「セレナだってできてたよ!」「アミーカもすごかった!」と口々に褒め始めた。


 いつの間にか教室は和やかな空気に包まれ、先生を責める声は消えていた。


 先生はその光景を見て、呆気に取られていたけれど、すぐに気を取り直して教壇に立った。


 その目は、「もう絶対に折れない」という教師としての強い光を宿していた。


 ◇◆◇


 数日後。私とアミーカはマチルダ先生に呼び出され、進路相談などで使う個人指導室にいた。

 デリケートな話題を扱うので、部屋は防音処理が施されている。


 机の上には、例の偽造張り紙が置かれている。なるほど、これはこの部屋を使うわけだ。


「これ、あなたの字よね、セレナさん?」


「知りません」


 私は即答したが、先生はふふっと笑ってそれを鞄にしまった。


「まあいいの。別に犯人探しが目的じゃないから。たった一日でも、素晴らしい体験をさせてくれたもの。ねぇ、『つむじ風コンビ』さん?」


 先生がさらりと言ったその名前に、私とアミーカは顔を見合わせた。


 それが先生たちの間で例のいたずらコンビを指す呼び名だと聞かされると、アミーカは「カッコいい!」と目を輝かせた。


「ねえねえセレナ、わたしたち『つむじ風コンビ』だって!」


「アミーカ、『わたしたち』って自白しちゃってるけど、いいの?」


 私が突っ込むと、アミーカはハッとして口を押さえた。


「ふふ。別にいいの。ただ、この字がセレナさんのものって気付いた時に、私はどうしてこんなことをしたのか、どうしても理由を知りたかったのよ」


 先生は真剣な表情で問いかけてきた。

 いつものおふざけじゃないことは伝わっている。私は覚悟を決めて、口を開いた。


「……先生の歴史の授業、もっとみんなに聞いてほしかったんです」


 私はカバンから歴史の教科書を取り出した。この世界では、初等学校で学ばないと、歴史を知らないまま大人になる人が多い。

 過去の成功や失敗を知ることは、未来の役に立つはずなのに。


「でも、みんな授業を聞かない。それはやる気がないんじゃなくて、集中力が続かないからだと思うんです」


 私はノートを取り出し、ペンで図を描いた。今の「五十分授業・十分休憩」の枠を書き、その隣に新しい枠を描く。


「だから、こう変えませんか? 『二十五分授業・五分休憩』のセットにするんです」


「時間を……短くするの?」


「はい。これはアミーカを見てて気づいたんです。私は魔導具作りで長時間集中できますけど、アミーカはお店の手伝いの癖で、30分くらいでソワソワし出すんです」


 隣でアミーカが「あはは……」とバツが悪そうに頭をかく。

 でも、時間を区切って勉強するようになってから、アミーカの成績は劇的に伸びたのだ。


「なるほど、確かに理屈は通ってるわ」


 先生は頷いたが、すぐに表情を曇らせた。


「でも、実際に導入するには管理課への申請が必要ね。すぐには通らないわ」


「……そうですか」


 やっぱり無理か。私が肩を落とした、その時だった。

 先生が柔らかく微笑んだ。


「……ただ、試験的に特別授業の一環でやるくらいなら、方法はあるかもしれないわ」


「本当ですか!?」


「ええ。子供たちがどう感じているか、あなたたちの方がよく知っているもの。教師としてのプライドにかけて、もっと良い授業にしてみせるわ」


 先生の言葉に、私とアミーカは顔を見合わせて喜んだ。

 やった、作戦成功だ!

 隣でアミーカが、どこか誇らしげに先生を見つめていたのが、少し印象に残った。


 でも、話はこれで終わりじゃなかった。

 先生は椅子に座り直し、いたずらっ子のような笑みを浮かべて聞いてきたのだ。


「それで、ちょうどいい機会だから聞いておくけど、あなたたち、イタズラはやめる気はないのかしら?」


私とアミーカは顔を見合わせる。

アミーカは微妙な表情を浮かべつつ、私も似たような顔だろう、同時に首を傾げた。


――たぶん、やめない。





―――――――――――――――――

クラス全員で模範演技、イタズラの裏にある教育改革への提案、

先生も巻き込んで新たな風が吹く予感がしてきましたね。


次回、第15話「やりたいことが、まだ分からない」

イタズラ引退宣言!?

セレナの怒りと涙、そして先生への反撃!


ちなみにセレナたちの「いたずら」、あなたはアリだと思いましたか?それともナシ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る