第15話 やりたいことが、まだ分からない
「んー、そろそろ止めると思いますよ」
先生の問いに答えたのは、私ではなくアミーカだった。
「「えっ!?」」
私と先生の声が重なった。
だって、あのアミーカだよ? 私を悪の道に引き込み、先頭を切って走り続けてきたアミーカが、自分から止めるなんて。
アミーカは膝の上で手をモジモジさせて、話し始めた。
「……ちょっと、やりたいことが見つかったような気がするんです。でも、まだ本当にそれが自分のやりたいことなのか、ハッキリとは分からなくて……」
……そういえば最近、アミーカ、少しだけ考え込むことが増えていた。
でも、まさかこんな形で聞かされるなんて――。
そして顔を上げ、真っ直ぐな目で先生を見る。
「これがハッキリ『そうだ』って分かったら、たぶんイタズラしてる暇もなくなると思うので、止めると思います」
少し照れたような、でも真剣な表情。
その顔を見た瞬間、私の頭の中で何かが切れた。
「はー!? 何それアミーカ! わたし、そんな大切なこと聞いてないんだけど!」
私は強い口調で詰め寄った。
「あんた、そんな大切なこと親友の私にすら黙って、しかもイタズラやめるとか勝手に決めて、何なの!!」
黙ってたことに怒ってるんじゃない。親友だと信じてた相手が、私に何も相談してくれなかったことが悔しいんだ。
「セレナさん、ちょっと落ち着きなさい」
「先生は黙ってて!!」
先生の制止も振り切って、私は叫んだ。
「最初に声かけてくれて、イタズラ誘って、それからだって学校でも家でも楽しく遊んで、親友だったと思ってたのは私だけだったってことね!」
涙が溢れて止まらない。
本当に悔しい。悲しい。
アミーカのためにと、一生懸命コックさんセットを作ったあの頑張りだって、丸ごと否定されたようで。
私が机に突っ伏して泣いていると、アミーカもいつの間にか泣いていたようで、しゃくりあげながら言った。
「だ、だって昨日ちょっと思っただけだもん! だから本当にこれからなの! 決まったらセレナに最初に言うつもりだったもん!!」
「何なのよ、そのやりたいことって?」
「ちゃんと決まったら教えるから、もうちょっとだけ待ってよ。 なんか、今口に出したら、消えて逃げちゃいそうな気がして……私だってちょっと怖いんだよ」
弱々しい声。
ああ、これは本気で悩んでるんだ。とっても真剣なことなんだ。
それを感じ取ってしまった以上、親友がすることは決まってる。
私は袖でグイッと涙を拭くと、顔を上げてアミーカの両肩に手を置いた。
「ひどいこと言ってごめん! アミーカのそんな悩みも知らずに。私待つ! だから絶対一番最初に教えてよね?」
「当たり前じゃない!!」
アミーカは涙を流しながら、ニコッと笑ってくれた。
「ふぅ、一時はどうなることかと思ったわ。二人とも、本当に親友同士なのね」
マチルダ先生はそう言って微笑み、私たちにハンカチを貸してくれた。
そしてアミーカに向き直り、「先生たちも全力で応援するから、いつでも相談に来てね」とエールを送った。
◇◆◇
「さて……」
マチルダ先生は一つ息をつくと、私たちに向き直った。
「約束通り、今回のことではあなたたちを責めません。他の先生たちにも二人のことは黙っておきます」
「「やったー!」」
「……その代わり、もし次にあまりにも酷いイタズラをしたと感じた時は、私の口がうっかり滑ってしまうかもしれませんから、十分気をつけるように」
先生が少し意地悪く言うと、アミーカが涙の跡が残る顔でニヤリと笑い返した。
「分かりました! 先生の口が滑った時は、わたしもバルガス先生とのこと、うっかり口を滑らせちゃうかもしれないので、先生も十分気をつけてくださいね?」
「なっ……! ア、アミーカさん!?」
マチルダ先生が狼狽する。
さらにアミーカは追撃の手を緩めない。
「食堂には秘密なんてないも同然ですもん。ママもウワサ話好きだから、先生たちがチョコファウンテンの罠の話をしてたのも、バッチリ聞いてましたよ?」
「……そんな……」
アミーカの独壇場だ。先生が可哀想になってくる。
「あ、でも安心してください。お店で聞いた話は他言無用が鉄のルールですから。今回は先生が『当人』だから特別に言いましたけど」
「そ、そう……」
ちょんちょん。
アミーカの腕をつつくと、
「ん?ああ、セレナは私『本人』と同じ扱いだから、ノーカン、ノーカン!」
そう言ってアミーカは私の手を引いた。
何それっ!?
「それじゃ、これからもよろしくお願いしますね、マチルダせんせっ!」
私たちは指導室を後にした。
部屋に残されたマチルダ先生は、大きなため息をついた後、ふっと笑みをこぼしたらしい。
その日の夕方。
先生は職員室に戻ると、早速「時間割変更案」の企画書を作り始めたという。
その足取りは、どこまでも軽く、飛べそうなほどだったそうだ。
―――――――――――――――――
喧嘩しても仲直り、二人の絆に感動! 先生への反撃も痛快でしたね(笑)。
次回、第16話「守れた理由、失うかもしれないもの」
不注意で高価な薬草を割っちゃった! 責任を感じて森へ、そこで待つ魔物は?
皆さんは「やりたいことが分からない」と悩んだことは、ありますか?
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