第12話 想いを込める、という才能
パパとの特訓で薬剤が完成した次の日からは、ママの出番だ。
私はママに手伝ってもらって服の型紙を作り、ミシンに向かった。
使うのはもちろん、あの『サラマンダーコットン』だ。
普通の布よりも少し厚手でハリがあるけれど、肌触りは滑らかだ。
私は型紙通りに裁断した布を待ち針で止め、足踏みミシンのペダルを踏んだ。
ダダダダッ……。
軽快なリズムと共に、針が進んでいく。
「セレナ、そこでいったん布を持ち替えないと手縫っちゃうわよ」
ママの指導を受けながらミシンの針を進めていく。「アミーカが着てくれる」と思うと作業が楽しい。
出来上がった真っ白なコックコートに、黄色いチェックの可愛らしいエプロン。
うんうん、アミーカの明るい雰囲気に絶対似合う!
そして難関の帽子。
厨房の暑さ対策として、コック帽の中に小型のファンを仕込みたいのだ。
「風を起こす魔導具は私が作ってあげるわ。セレナにはまだ難しいから」
ママが取り出したのは、親指の先くらいの大きさの緑色の魔石が組み込まれた、小さな装置だった。
澪の知識にあった、小型の携帯電源くらいのサイズ感だ。
すごい、あんな複雑な送風回路をこんなに小さくできるなんて。ママもやっぱり天才だ。
「セレナは、それをどうやって帽子の中に上手に隠して、使いやすく組み込むか、考えてごらんなさい。そこがセレナの腕の見せ所よ?」
「うん、任せて!」
私は帽子の構造を工夫した。
麦わら素材でベースを作り、てっぺんに窪みを作って魔導具を埋め込む。
頭に直接当たって痛くないように綿を詰め、上から白い布をふんわりとかぶせて高さを出す。
見た目は普通のコック帽だけど、隠しスイッチを押せば頭の上から涼しい風が吹き下ろす仕組みだ。
よし、これで服と帽子、全ての形が整った。いよいよ最後にして最大の難関、「付与」の作業だ。
◇◆◇
私は深呼吸をして、作業台にコックコートを広げた。
パパと作った薬剤を刷毛で塗り、そこへ魔力を流し込んで定着させる。
ここで失敗すれば、高かった布も、パパとの苦労も水の泡だ。
「ゆっくりでいいわ。焦らず、慎重に。布全体に、魔力が染み込んでいくのをイメージするのよ」
ママが横で見守りながらアドバイスをくれる。
私は目を閉じて、自分の火属性の魔力を布へそーっと流し込んでいく。
イメージとしては、布の中央から水を注ぎ、それが波紋状にゆっくり、全体へと広がる感じ……。
(……くっ、重い!)
魔力を流し始めた途端、私は違和感に眉をひそめた。
サラマンダーコットンは魔力耐性が高い。
普通の布みたいに、素直には魔力を受け入れてくれない。
「むむむ……!」
額に脂汗が滲む。
均一に広げなきゃ。ムラがあったら、そこから火傷しちゃうかもしれない。
でも、広げようとすればするほど魔力が暴れて、指先が熱くなる。
やっぱり、今の私にはまだ早かったのか? 広範囲への均一な付与なんて、プロの技術だ。
その時、アミーカの顔が脳裏に浮かんだ。
『……いいなぁ』
あの時見せた、寂しそうな横顔。
いつも私を笑わせてくれる、太陽みたいなあの子に、あんな顔をさせたまま諦めるの?
そんなの、親友失格じゃない!
あの子には笑顔が一番似合うんだ。私が、あの子を守る最強の服を作るんだ!
(お願い……届いて!!)
私は技術や理屈を捨てて、胸の奥底から湧き上がるアミーカへの想いを、魔力に乗せて爆発させた。
ドクンッ。
その瞬間、心臓が大きく跳ねた気がした。
指先から溢れ出した魔力が、まるで意志を持っているかのように、布の繊維一本一本に吸い込まれていく。
抵抗感がない。
スゥーッと、水が砂に染み込むように、自然に、完璧に。
「……!」
視界が白く染まるほどの光が溢れ、そしてゆっくりと収束していく。
気づけば、コックコートは淡く、しかし力強い光を帯びていた。
ムラ一つない、完璧な付与。
「……できた」
私は大きく息を吐いて、その場にへたり込んだ。
達成感と魔力枯渇で、指一本動かせない。
横で見守っていたママが、信じられないものを見るような目で口元を押さえている。
「今の……魔力の波長が完全に同期してた……。実力以上の結果を引き出すなんて、セレナ、あなた……」
ママの驚く声が遠くに聞こえる。
私は震える手で、完成したコートを撫でた。ほんのり温かくて、守られているような安心感がある。
机の上には、真っ白なコックコート、黄色いチェックのエプロン、そして特製の帽子。
私の技術と、アミーカへの想いが起こした奇跡。
世界に一つだけ、私からアミーカへ贈る小さなコックさんセット。
その名も『コル・コクス』、ついに完成だ!
―――――――――――――――――
アミーカへの想いは限界すらも突破して……
世界に一つの仕事着、ついに完成です。
次回、第13話「心の料理人(コル・コクス)」
涙と笑顔の誕生日会!
親友の夢を叶える、最高のプレゼントです。
セレナの才能って、
技術だと思いましたか?
それとも「想い」だと思いましたか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます