第3話 青い魔力と、体が覚えていたこと
「いい? 魔法禁止令は出したけど、基礎練習は別よ」
お説教から一時間後。
私の抑えきれない好奇心を見抜いたように、ママは呆れながらも新しい課題を出してくれた。
「まずは魔力のコントロールを覚えること。それができないと、魔導具作りなんて夢のまた夢よ」
ママが棚から出してきたのは、キラキラした青い石が入った小箱だった。
「これは『水の魔石』。この中に入っている魔力を、自分の手で取り出してみなさい」
ママがお手本を見せてくれる。
右手に持った魔石から、ふわっと青い光が立ち上り、左手へと移っていく。
まるで生き物みたいにスムーズだ。
「コツはね、魔石の奥にある『水の魔力』を感じて……こう、グッと掴んで、スゥーッともう片方の手で受け止めるのよ!」
「グッと掴んで、スゥーッ……?」
「そう! 遠慮しないでグイッ!と寄せる感じ! 分かった?」
ママは「完璧な説明でしょ?」という顔でニカッと笑った。
わ、分からない……。ママ、もしかして教えるの下手なタイプ?
「私はお洗濯を取り込んでくるから、その2個の魔石が空っぽになるまで練習してなさい」
ママはそう言うと、課題だけ残して工房を出て行ってしまった。
◇◆◇
私は一人、机に残された魔石と向き合う。
よし、やるぞ!
ママの言った通りにやってみよう。
私は魔石を右手に握りしめ、受け止める左手は、魔力をこぼさないようにコップの形にして構えた。
グッと掴んで、スゥーッ……スゥーッ……!
「…………」
全然、出てこない。
魔石はただの冷たい石ころのままだ。
もう一度、今度は顔が真っ赤になるくらい力を込めてイメージしてみる。
「んん〜〜〜っ! ……ぷはっ」
ダメだ。びくともしない。
そもそも、硬い石から何かを「ズズズイッ」ってどういう感覚なの?
どうしよう、これじゃせっかく「才能あるかも」って言ってくれたママをガッカリさせちゃう。
(何か、別の方法は……)
私は魔石をじっと見つめながら、必死に考えた。
無理やり引っ張るのがダメなら、別の動かし方は?
水……液体……移動させる……。
うーん、うーんと唸っていた、その時。
また、頭の奥がチリッとした。
(……あ)
頭の中に、不思議な映像が浮かぶ。
それは、高いところに置いた水槽から、低いところにあるバケツへ、一本の管を通って水が勝手に流れていく光景。
意味は分からない。でも、その映像が教えてくれている理屈は、すごくスッと心に入ってきた。
(……下に、落ちるだけ)
私はハッとして、魔石を持った右手を高く持ち上げた。
受け皿になる左手は、おへその前あたりに低く構える。
イメージするのは「スゥーッ」と吸うことじゃない。
右手と左手を、見えない透明な管で繋ぐようにイメージする。
あとは、高いところにある水が、自然に落ちていくのを待つだけ。
(流れろ、流れろ……)
力を抜いて、頭の中の映像をなぞるように念じる。
すると――。
ドクン。
右手の魔石が脈打った気がした。
次の瞬間、ツーッと細い青い光が、魔石からあふれ出した。
光はまるで本物の水みたいに、私のイメージした「見えない管」を通って、下の左手へと流れていく。
「わあ……っ」
じわじわと、左手が温かくなる。
やがて私の左手のひらの上には、クルミくらいの大きさの、キレイな青い魔力のボールが浮かんでいた。
できた!
胸の奥がぽわっと温かくなる。
ガチャッ。
ちょうどその時、ドアが開く音がした。
「セレナ、そろそろパパが……って、えっ!?」
洗濯カゴを抱えたママが、入り口で固まっている。
「ママ、見て! できたよ!」
「うそ……もうできたの? それに、なんて純度の高い魔力球……」
ママが早足で寄ってきて、私の手の中にある青い光をまじまじと見つめる。
「『スゥーッ』ってやるの、難しかったでしょ? 普通は感覚を掴むのに一週間くらいかかるのに」
「ううん。吸うんじゃなくてね、『高いところから流す』イメージにしたら、勝手に出てきたの!」
私が得意げに説明すると、ママは「高いところから……?」と呟いて、ポンと手を打った。
「ああ! 川の流れと同じことね!?」
ママが驚いた顔で私を見る。
「やり方は荒いけど、発想は悪くないわ」
そんなことをしていると、
「ただいまー! 今日はパパが特製シチューを作るぞー!」と元気な声が聞こえてきた。
「パパだ!」
私は青いボールを握りしめたまま、パパのところへ駆け出した。
今日は怒られてばっかりだったけど、これならきっと褒めてもらえるはず!
澪が「置いていくね」と言っていたもの。
たぶん、それを使ったんだと思う。
でも、どう使ったのかは、よく分からない。
勝手に体が動いただけだった。
これがあれば、もっと色々できる気がする。
そう思うと、胸がドキドキした。
でも、そのドキドキが何なのかは、まだよく分からなかった。
―――――――――――――――――
澪の知識でママの感覚指導を攻略!
才能を開花させたセレナですが、
パパの反応が楽しみですね。
次回、第4話「温かいシチューと、できない現実」
娘の才能にパパ大号泣!
でも知識に体が追いつかない……?
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