第2話 あふれ出す光と、早すぎたお説教

 ガチャリとドアを開けた、その瞬間だった。


「セレナァァッ!! お誕生日おめでとうぅぅぅ!!」


 ドサッ!

 視界がふさがったかと思うと、私は大きな体に押しつぶされそうになっていた。

 このやり過ぎ愛情表現は……パパだ!


 ものすごい勢いで抱きしめられ、「高い高ーい!」と天井近くまで持ち上げられる。


「うわっ、パパ、高いってば!」


「いやぁ、嬉しいなぁ! 俺のセレナがもう五歳かぁ。パパ、感動で涙が……」


「はいはい、ルキウス。セレナが苦しがってるから降ろしてあげて」


 ママが呆れたように助け舟を出してくれて、ようやく私は地面に戻ることができた。


 パパは「ああっ、俺の愛しの天使が……」なんて大げさに嘆いているけれど、その顔はデレデレに緩みきっている。


 森で拾われた私を、ここまで愛してくれる家族。パパとママの笑顔を見ると、私もなんだか嬉しくなる。


 今日の朝ごはんは、焼きたてのパンに温かいスープ、そしてデザートには私の大好きな『月の葡萄』が出てきた。


 甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。

 んー、おいしい! 今日は最高のお誕生日だなぁ。


 ◇◆◇


 朝食を終えて、私はいつものようにママの仕事場である工房に向かった。

 簡単なお掃除や道具運びは、私の日課だ。


 机の上には、修理中のランタンと、複雑な模様が書かれた図面が置かれている。

 これが『魔導回路』。

 魔導具を動かすための設計図だ。


 それを見て、ふと、あの時の光景が脳裏によぎった。


 みんなでご飯を食べに行った時、お店のランタンが壊れちゃって、お客さんがみんな困ってたこと。

 でも、ママがパパッと直したら明かりがついて、みんなが「わぁ!」って笑顔になったこと。


(あの時のママ、すごくかっこよかったなぁ)


 私もいつか、あんなふうに誰かを笑顔にできたらいいな。

 そんなことを考えながら、私は何気なく図面をのぞき込んだ。


「えっと、ここがこう繋がって……」


 ママの説明を聞きながら回路を目で追う。

 いつもなら「難しい模様だな」としか思わないはずだった。

 でも、今日は違った。


(……あれ?)


 その模様を見た瞬間、頭の奥がチリッとした。

 線と線が絡み合っているだけの図面なのに、私にはそれが「水の流れるパイプ」のように見えたのだ。


 ここから入って、あそこで分かれて、ここで合流する……まるでパズルみたいに、意味がスルスルと頭に入ってくる。


「ねえママ。ここの線、こっちに繋げたほうが、通りやすいんじゃない?」


 私は無意識に、図面の一箇所を指差していた。そこは、魔力の通り道が少し遠回りをしている部分だった。


「えっ? ……うそ、本当だわ」


 ママが目を丸くして、私と図面を交互に見比べる。


「このほうが抵抗が少ない。セレナ、あなた魔導回路が読めるの?」


「うーん、なんとなく? こっちのほうがキレイに見えるから」


 私が首をかしげると、ママは「五歳で回路の最適化を直感で見抜くなんて……」と、信じられないものを見るような目で呟いた。


「私、魔導具作れるかな? ママみたいに、みんなを笑顔にする道具を作りたい!」


「……ふふ、そうね。その才能があれば、きっとなれるわ」


 ママは嬉しそうに私の頭を撫でると、棚から水晶玉がついた機械を取り出した。


「でもその前に、セレナに魔力があるかどうか調べないとね。魔力がなきゃ始まらないから」


 ◇◆◇


「ここに手を置いてみて」


 これが『魔力測定機』。

 私はドキドキしながら、ひんやりとした石に右手を乗せた。


(魔力、あるといいなぁ……)


 ママみたいに魔導具師になりたい。

 そうなればもっとお手伝いができるもん。

 心の中で「お願い、お願い」と念じる。


 カッ!!


 その瞬間、目の前が真っ白になるほどまぶしい光があふれ出した。

 赤、緑、水色……三つの色が混ざり合って、工房を照らし出す。


「うわっ、まぶしっ!」

「あら……これは予想以上ね」


 のぞき込んだママが驚きの声を上げる。


「すごいわよ、セレナ。あなた、『火』と『風』、それに『氷』の属性を持ってるわ。魔力の量も、将来が楽しみな『A判定』ね」


「えっ、ほんと!?」


 やったぁ!

 私は嬉しくて、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。魔力があった。しかも、ママが驚くくらいいっぱい!


「これで魔導具作れるね!」


「ええ。それに属性持ちなら間違いなく魔法が使えるわ」


「えっ、魔法も使えるの!?」


 ママの説明を聞いて、私のテンションはさらに上がってしまった。

 魔法! 絵本に出てくる、あの不思議な力!


「ちょっと出してみたい!」


「えっ、ちょ、待ちなさいセレナ! まだ制御の仕方を――」


 ママが止めるのも聞かず、私は自分の手に意識を集中させた。

 私の属性に『火』がある。

 だったら、ここから火が出るはず!


(火よ、出ろー! えいっ!)


 強く念じる。

 その時、また頭の奥で何かがチリッとした。

 一瞬、目の裏に知らない映像が焼き付く。


 それは見たこともない青白い炎が、「ゴォォッ!」と激しい音を立てて噴き出す光景だった。


(……たぶん、これだ)


 私は無意識にその「音」と「勢い」を真似して、ありったけの力を指先に込めた。


 ドォォォッ!!


「うわっ!?」


 指先から、焚き火を丸ごと投げつけたみたいな太い炎が噴き出した。

 熱い風が顔を叩く。


「きゃあああっ!?」

「あぶない!!」


 ママが叫んで手を振ると、大量の水が現れて私の炎を飲み込んだ。

 ジュウウウ……ッという音と共に、工房が真っ白な湯気でいっぱいになる。


「げほっ、げほっ……」


 視界が晴れると、机の上の図面が半分くらい焦げて、黒くなっていた。

 やっちゃった……。


 ◇◆◇


「いいこと? 制御できなきゃただの火事よ! 家を燃やす気なの!?……今のは、たまたまよ。二度と同じことができると思わないで」


 工房の床で正座をさせられて、私は小さくなっていた。

 ママは仁王立ち。怒ると誰よりも怖い。


「ごめんなさい……」

「今日から許可なく魔法使うの禁止! 分かった?」


 しょんぼりと頷く私。

 でも、反省しているのと同時に、私の胸の奥はずっと高鳴っていた。


 あの時、頭の中に浮かんだ不思議な映像。

 あれに従っただけで、あんなにすごい炎が出せた。

 まるで、私の中に――やり方を知っている何かがいるみたいだ。


(……もっと知りたい。これを、ちゃんと使えたら)


 焦げ臭い工房の中で、私は禁止されたばかりの魔法への好奇心を、抑えることができなくなっていた。





―――――――――――――――――

パパの溺愛とママの頼もしさ、そしてセレナの才能が見えた回でした。

禁止令が出されましたが、好奇心は止められないみたい?


次回、第3話「青い魔力と、体が覚えていたこと」

ママの魔法特訓は超感覚派!?

分からないセレナの頭に浮かんだのは「水槽とバケツ」の映像で……。


禁止令、守れると思います?

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