笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界を繋いでいる

八坂 葵

第1話 一つになれなかった、はじまりの日

 目を開けると、そこは花畑だった。


「えっ、えっ!私、寝てたよね?」


 周りを見回しても花しかない。

 でも風が吹いているはずなのに、花は一輪も揺れていない。

 まるで、最初から“止まっていた”みたいに。


「ここどこぉ、パパぁ、ママぁ……」


 呼んでも声は返ってこない。

 私が座り込んで涙ぐんでいると、私の後ろにふっと何かの気配を感じた。


 振り向いてみると、そこには知らないお姉ちゃんがいた。

 思わずびっくりして後ずさったんだけど、なぜか向こうも驚いた表情をしている。


「あー!もう来ちゃったのか。早いって」


 そんなこと言われても知らないもん!

 っていうか誰よ、アンタ。


「あ、ごめんごめん。私ね、みおっていうの。別世界で死んじゃって、今は……オバケみたいなもんかな?」


「ひっ!」


 思わず目を閉じて耳をふさぐ。


 私はオバケの話は苦手なの。

 この前もそれで脅かしてきたパパと一週間口をきかなかったくらいだもん。


「あー、ごめんって、ウソウソ。長く話してる余裕、あんまりないみたい。セレナ、このままだと消えちゃうの」


「消え……ちゃう?」


「そう。本当はここで、何か決まるはずだったんだけど……さっきあなたがここに来た時感じたの。このままだと……あなたが、向こうに行けなくなる気がしたの」


 澪はそう言って困った表情を浮かべながら、後ろ頭をポリポリと搔く。


「私、死ぬの……ヤダよぉ」


 森で拾ってくれたパパやママにまだ何もお返し出来てないし、友達とも遊びたいし……


「うん、だから今は一つになるのやめない?セレナがもっと成長する頃まで私は心の中で眠らせてもらうからさ」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


 なんで私のこと、この人が勝手に決めてるの。

 いやだよ、消えたくないよ……


 頭の中がぐちゃぐちゃになって、

 ふと、口が動いていた。


「……出ていけばいいじゃん」


 ついはずみで酷いことを言ってしまった。

 それを聞くと澪はとても悲しそうな顔をして、


「出ていってあげたいんだけどさ、もう元の身体ないから、出ていったらもう消えちゃうしかないんだ……」


 そう言って俯いてしまった。


「ごめん、私の勝手だって分かってる。でもね、私も今すぐ消えるなんて嫌なの。また何も残さずに消えるのが耐えられないのよ」


 そっか、澪は行き場がなくてどうにか私と一緒にいられる方法を探してるんだ。


「私は奪うつもりなんてない。ただ、隣で一緒に見ていたいだけ」


 私だって拾ってもらえなかったら森で死んでた。だったら今度は私が誰かにその優しさを返さなきゃいけない気がした。


「分かったよ、澪。私が消えるのは嫌だけど、澪にも消えてほしくない。私の中で眠れるなら、場所貸してあげるよ」


 そう言うと澪が顔を上げる。

 気づかなかったけど目に涙をいっぱい浮かべてた。


「……ホント?」


「うん、私が消えないようにって考えてくれた澪が消えちゃうのはイヤだもん。だったら、二人で一緒にいよう」


「うん……うん、ありがとう」


 澪はそう言って私を抱きしめた。


 ◇◆◇


「そうしたら私が眠る前に、私の世界の知識を渡しておくよ」


「澪の世界の?」


「うん、一つになれなかったお詫びみたいなもん。しばらくは意味が分からないかもしれない。その意味は自分で探してみてね」


 澪は私の頭を両手で挟むと、ゆっくりとおでこを近づけ、私のおでこと触るか触らないかのところで止まる。


「いくよ。少しだけ我慢してね」


 優しい笑顔でそう言うと、澪のおでこから一筋の光が伸びて私のおでこに当たる。

 すると、あっという間におでこ全体が光るような太さに変わり、私の頭の中に何かが入り込むような感触があった。


 澪が我慢してといった意味が分かった。

 これは……なんか気持ち悪い。

 吐きそうというわけじゃない。


 知らないはずのものが、当たり前みたいに頭の奥に沈んでいく。


「うっ……」


 思わず声が出てしまう。


「あと少しよ、頑張って」


 澪に励まされ、手を膝に当ててなんとかふんばる。


 すると、ようやく終わったのか、少しずつ光が細くなりホッと胸を撫で下ろそうとしたら、今までにない一際大きな波が私を襲う。


 ◇◆◇


「亜美、よけて!!」


『私』は体ごと亜美にぶつかりはじき飛ばす。


「澪っ!!」


 親友の悲痛な叫び。

 私はそれを聞いて


(良かった、助けられた……)


 と安堵し、そのまま闇に呑まれていった。


 ◇◆◇


 キュウッと胸が締め付けられ、頬をつぅと涙が伝う。


「ごっ、ごめん!!それ渡すつもりなかったやつ!」


 澪が慌てて私の頭から手を離し、私の顔を見て不安そうにしている。


(……この人、ほんとに大丈夫かな)


 でもまあ、澪はそういう人なんだよね……


「澪……」


「な、なあに?」


「私が育ったら、また澪は出てこれるの?」


「あ、うん!でもその頃にはセレナの自我が育ってるから、たぶん一つにはなれないと思うけど」


 一つになれないなら澪は?

 私の不思議そうな顔を見て、


「たぶんセレナの中でこんな風に会ったり、セレナが起きてる時に、心の中でアドバイスしたり出来るよ」


 そう言ってニッコリ笑う。


「澪はそれでいいの?」


「だってさ、一つになったら迷った時や辛い時、一人で頑張らなきゃじゃん?お互いがいたら頼れるから、きっと心強いよ?」


 私の頭を撫でながら、


「さっき上げた知識はしばらく使いこなせないと思うけど、この世界で使いすぎるとちょっと変に見られるから、くれぐれも気をつけてね」


「それじゃ、そろそろ行くよ。眠ってても私はセレナと一緒。もし寂しくなったら私のことを思い出して」


 そういって優しく笑う。

 不思議……

 さっき会ったばかりなのに、どこか懐かしい、安心する顔だ。


「うん、また澪が帰ってこられるよう、私も頑張る。だから、また必ず会いに来てね」


 そう言って澪の腰に抱きつく。

 その私を包み込むように澪が抱きしめてくれる。


「うん、絶対会いに戻るよ」


 そう言ったかと思うと、澪の身体は細かい光となって私の胸に飛び込んできた。


 とても優しくてあったかい……

 澪の優しさがそのまま温度になったような光、その光がすっかり胸におさまると、私は一粒涙をこぼした。


 ぐいっとそれを拭い、今や誰もいない黒い空を見上げて


「見てて!頑張るからー!!」


 そう叫ぶと、私の意識もふっとそこで途切れた。


 ◇◆◇


 ……レナ、セレナ


 澪とは違う、優しく私を揺り起こす声。

 ああ、きっとママだ。

 起きなきゃ。


 頭が重い……

 きっとさっきの贈り物のせいだ。

 私は頭を押さえながら、ゆっくりと目を開ける。


「やっと起きたわね。セレナ、おはよう。今日はあなたの五歳の誕生日よ。おめでとう」


 そう言ってギュッと私を抱きしめる。


「さ、朝ごはんにしましょ。パパがいつも以上に気合入れて待ってるから覚悟したほうがいいわよ?」


 私から離れてそう言うと、ママはいたずらっぽく笑って部屋を出ていく。


 ハァ、今日はどうやってやりすごそうかな……

 ただでさえ頭重いし、まだふわふわしてるのに。


 私は二重の意味で頭を抱えながら、それでも前を向いて部屋のドアを開けた。



 この時間が、ずっと続くものだと、そのときの私は疑いもしなかった。





―――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございます。

不思議な少女、澪との出会い、そして託された想い。

ここからセレナの物語が始まります。


次回、第2話「あふれ出す光と、早すぎたお説教」

5歳の誕生日は朝からパパが全開!

そして、澪からもらった「贈り物」がさっそく一波乱巻き起こす!?


セレナの中で眠りについた澪。

あなたの中で澪ってどういう印象でしたか?

よかったら教えてくださいね♪

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