第2話 採用!
「小鳩ちゃーん、陸軍省から結果が帰ってきているよー」
双葉が封筒2つ掲げてこっちに向かってきた。
「ねえねえ、二人で一緒に開けない?」
「高校受験の結果発表じゃないんだからさあ」
「もう、そんなに固くせずに、はい」
無理やり封筒を押し付けられる。その封筒には堅い字で私の名前と陸軍省の字。そして、陸軍省の神々しいマークが書いてあった。
「おお、お堅い雰囲気ですな」
「一国の軍隊が堅くなかったら攻められまくりだよ」
また職員室からカッターを借りて封筒に開け口を付ける。
「一緒に開けるよー。せーの」
双葉と一緒に中の書類を開ける。私の目に衝撃が走った。
「わー不合格だったー。悔しー」
双葉は第一志望に落ちた時と全く同じ反応をしていた。
私はまだ目の前のものを凝視していた。
なんだ、これは。
「小鳩ちゃんはどうだった?」
双葉が首を伸ばして私の書類を勝手に見た。
「え、アットホームな職場です?どゆこと?」
私の封筒の中にはお堅い陸軍省とは一切関係のなさそうなポップな文字で『アットホームな職場です!!!』と書いてあった。
「なんかの間違いかなあ」
「でも下に陸軍省って書いてあるよ」
チラシみたいな紙の真ん中には笑顔のお姉さんの写真が貼られており、その吹き出しからは『毎日が楽しい!』と書いてあった。一見ふざけた書類だが、1番下には陸軍省の字と神々しいマークがある。
「ええっと、新兵器開発部?だって」
「へえ、なんかよくわからないけどすごいじゃん」
裏にしてみると今度は私の頭に直接電流が流れた。なんだこれは。双葉が覗くと院内全体に聞こえるほどの声で叫んだ。
「しょ、初任給120万円?え、嘘でしょ。しかも、衣食住付き?小鳩ちゃんエリートじゃん!」
「そんな、何かの間違いだよ」
「すごいよ。優ちゃーん小鳩ちゃんがエリート入りだよーう」
双葉の爆発的な声が建物全体を震わせたせいでみんなが集まってきた。
「ふ、双葉ちゃん、恥ずかしいよ」
職員室から優ちゃんが出て来て、調理室から栄養士さんまでも駆けつけてきた。私の頭に熱が一気に上る。
「小鳩ちゃん、何事なの?」
院のみんなが私に視線を向ける。私は恥ずかしさに耐えきれず手で顔を覆った。
「小鳩ちゃんがね、陸軍省のエリートに採用されたの」
みんなの目が輝き、わっと歓声があがった。
「すげー!」
「小鳩ねーちゃん、かっこいいー!」
「今すぐ、祝いのケーキを用意しますね」
玄関が熱を帯びる。私の頬も限界まで熱を帯びた。
「もう、双葉、なんで騒ぎを起こすの?」
「いいじゃん。めでたいんだから」
事実、私の中の興奮も尋常なものではなかった。軍のエリート層。それは日本の子供、誰もが憧れる職。その職に就けることは非常に名誉なことであったし、一生涯の生活が保証されるものでもあった。
「しかも、史上最年少の新兵器開発部なんだって」
「すげー!」
「小鳩ねーちゃん、敵をたくさん倒して!」
こんなにたくさんの人に注目され、賞賛されることは初めてで、めまいがした。
バンッとドアが開いた。
「小鳩ちゃん、話は聞いたぞ。おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
近所の人たちが玄関に雪崩れ込んできた。みんな戦争に勝った時ほど興奮している。
「誰が呼んだの?」
「俺が呼んだ!みんなに小鳩ねーちゃんのこと祝って欲しかったから」
小学五年生の武生が誇らしそうに叫んだ。
「よし、今夜は特別にこの酒を開けるぞ」
「そうだな。めでたいことだからな」
うおおーと大人達に熱が入ってきた。私はみんなの興奮に驚きながら玄関の隅で、一人、誇らしく感じていた。
アットホームな戦場です!!! 赤腹井守 @Akaharaimori2022
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