アットホームな戦場です!!!

赤腹井守

第1話 せんとうき

 「あー、こばとちゃん見つけたー。今日も鳥にえさやっているの?」

 その大きな声におどろいて、えさ台にいた小鳥たちは飛んでいってしまった。

 「もー、ふたばちゃん、小鳥が逃げちゃったよ」

 「ごめーん。でも、みんな探していたよー」

 双葉は悪びれずに手を合わせた。

 「本当に鳥が好きなんだね」

 「うん。鳥になって空を飛んでみたいんだ」

 キョキョキョと何かが鳴いている。見上げると青く、広い空でゴオォォと戦とう機が飛んでいる。

 「せんとうきのパイロットになったら?」

 「男子の1番なりたいお仕事じゃないんだからさあ」

 「あ、鳩だ」

 えさ台からこぼれたえさを真っ白な鳩がせっせと集めている。

 「かわいいね」

 「うん。鳥になるなら鳩になりたいな」

 「はとかあ。あ、もしもこばとちゃんがはとになっちゃったら焼きとりにしちゃおうかな」

 「やめてよー」

 ハハハと笑い合う二人の少女をよそに白い鳩は空へと飛びだっていった。戦闘機が飛ぶ空へ。

 

 「遂に中学校卒業ね」

 優ちゃんが涙ぐんでいる。

 「あんなに小さかった小鳩ちゃんと双葉ちゃんがこんなにも大きくなって」

 「優ちゃん、毎年のように泣いているよね。吉川先輩の時もさ、ギャン泣きだったじゃん」

 桜が涙を流すかのようにたくさんの花びらを撒き散らす。

 「大切に育ててきた子供たちが卒業するのはとても感動することなのよ。あんた達が大人になればわかるよ」

 優ちゃんがハンカチを目に当てる。

 「優ちゃん、それ以上泣いたら干からびちゃうよ」

 「小鳩ちゃん、そんなわけないでしょー」

 アハハハと双葉の元気な声が雲一つない空に響き渡った。


「え、徴兵審査?」

 双葉が郵便ポストに頭を突っ込んだまま大声で叫んだ。

「どうしたの?」

 双葉はポストから頭と手を引っ張り出して封筒を見せてきた。封筒の表面には私と双葉宛に『陸軍省による徴兵審査について』と書かれていた。

「あれ、徴兵年齢って、18歳じゃなかったけ?」

「確かそうだったような。引き下げが行われたのかなあ」

 職員室からカッターを借りて、封筒を開けると『徴兵年齢の引き下げについてのおしらせ』で始まる文章が並んでいた。


 徴兵年齢の引き下げについてのお知らせ

 雪が溶ける時期になり、身を刺すようなような寒さも和らいできました。中学校卒業おめでとうございます。この頃、我が国周辺で他国による軍事威嚇が頻発しております。このことから、今の防衛体制では国土を守ることができないと判断し、兵員を増強するしかないという判断を致しました。そのため、今年から中学校卒業をした生徒全員に徴兵審査をかけることにいたしました。苦渋の決断となりましたが、この国を守るためにあなた方の協力が必要です。どうか同封されている徴兵審査書を持って、3月21日に近くにある陸軍関係施設に来て、審査を受けてください。この国のために戦うことを願います。

            三月吉日 陸軍省


 「へえ、本当に引き下げが行われるんだあ。もうちょっとダラダラしていたかったのにー」

 「しょうがないよ。国が決めたことなんだし」

 封筒から私と双葉の名前が書いてある審査書が出てきた。

 「私たちの1番近くにあるのは習志野の演習地だね」

 「来週そこに行くかあー」

 「優ちゃんに知らせないと」

 職員室に行って、優ちゃんにこのことを話すと、優ちゃんは悲しいような嬉しいような、なんか困った表情をしていた。

 「そう、下がっちゃったのね」

 「まあ、国が決めたからしょうがないよ」

 「そうね…」

 この時の優ちゃんの声にはいつもの元気はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る