第6話 第3の秩序

 降り積もる雪と、融け去ろうとする残滓。

 二つの動詞が互いを否定し合い、世界は震え続けた。


 だが、やがて矛盾は破壊ではなく、結合を選んだ。

 雪は残滓に冷たさを与え、残滓は雪に温度を与える。

 その瞬間、雪は凍りつくことをやめ、

 残滓は溶け去ることをやめ、

「滞留する」という第三の性質が生まれた。


 それは奇妙な光景だった。


 地面に降った雪は、決して積もらず、

 しかし決して融けもしない。

 空気中に漂ったまま、

 無限の“白い現在”として存在し続けた。


 この新しい秩序の中で、存在たちは変容した。


 ・言葉を取り戻した残滓は、雪の声と混ざり合い、

 単語と結晶が融合した「白い詩」となった。


 ・身体を失った雪の存在は、残滓の影と結合し、

 半透明の躯を得て「透過する人々」となった。


 ・時間を奪われていた世界には、「瞬間だけが延びる」時間が流れ、

 過去も未来もなく、ただ“今”だけが増殖していった。


 私はその中心に立ち、ようやく気づいた。

 雪も残滓も、秩序に抗うために存在していたのではなく、

 新しい秩序を生み出すための素材に過ぎなかったのだ。


「第三の秩序」──

 それは矛盾がそのまま肯定される世界だった。


 雪が融けることも、残滓が凍ることも、

 矛盾した両義性のまま共存し、

 世界はそれを拒絶せず、むしろ拡張していった。


 そして私は、自分自身が「誰」なのかを失った。

 雪でも残滓でもなく、

 ただこの第三の秩序そのものへと変質していったのだ。


 世界はもはや、私の中にあった。

 あるいは、私が世界の中にあったのかもしれない。


 どちらでもよい。

 なぜなら、第三の秩序においては、

 問いと答えの境界すら、意味を持たないのだから。

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雪が秩序だった世界 長編 水到渠成 @Suito_kyosei

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