第十一話 準備

我はルゥメア。

幻精王である。


最初に行うべきは、

判断ではない。


保護だ。


少女は眠っている。

深く、安定して。

だが、その場所は森だ。


森は緩やかだが、

完全ではない。

偶発は起きる。

外乱は入り込む。


王城へ運ぶ。


それは、

隔離でも拘束でもない。

最も管理が行き届く場所へ

移すというだけの行為だ。


妖精たちは何も言わない。

彼女を害と認識していない。

むしろ、

道を空ける。


少女は、

城の最奥に横たえられる。


王の間よりも、

さらに内側。

時間の流れが

最も安定する場所。


ここなら、

眠りは守られる。


次に行うのは、

解析だ。


我は幻精王だ。

眠りと意識の境界に

干渉できる。


これは禁忌ではない。

王に与えられた

正規の権能だ。


ただし、

用いたことはない。


理由は単純だ。

必要がなかった。


我は手を伸ばす。


触れるのは、

肉体ではない。

意識の残滓。

接続の名残。


視界が反転する。


流れ込んでくるのは、

統一された記憶ではない。


断片だ。


病室。

白い天井。

点滴の音。


次の瞬間、

まったく別の光景。


教室。

窓際。

季節の分からない光。


さらに跳ぶ。


装置。

横たわる身体。

頭部を覆う器具。


そしてまた、

森。


我の城。

王座の段差。


支離滅裂だ。


時間軸が無い。

距離の概念も曖昧だ。


だが、

混乱はしない。


我は知っている。


外に世界がある。


ここに映るものは、

同一の世界ではない。

それぞれが、

彼女の本体に紐づいた

異なる層だ。


プレイヤーの意識は、

直線的ではない。


外と内を、

行き来する。


跳躍し、

接続し、

断続的に存在する。


なるほど。


この世界での

「眠り」が、

単なる停止ではない理由が

理解できる。


我は解析を進める。


外側の身体は、

既に機能を失っている。

だが、

接続はまだ残っている。


細い。

だが、

完全には断たれていない。


今なら、

間に合う。


仮に失敗したとしても。


我は考える。


我には、

本体がない。


失うものは、

この世界での立場だけだ。

それすら、

仮初に過ぎぬ。


ならば、

賭けとしては

成立している。


彼女は、

眠っている。


拒否も、

同意もない。


だが、

先に言っていた。


「眠ってる感じだと思う」


それで十分だ。


我は決める。


これは奪取ではない。

延命でもない。


帰属の再設定だ。


彼女の器は、

まだ温かい。


接続は、

まだ生きている。


王城は、

場として完成している。


条件は揃った。


残るのは、

実行だけだ。



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2026年1月3日 18:00
2026年1月4日 00:00

我はNPC、幻精王ルゥメア 濃紅 @a22041

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