第十話 時間制限

我はルゥメア。

幻精王である。


少女は、

眠り続けている。


一度や二度ではない。

短い切断でもない。

回線の揺らぎでも、

一時的な離脱でもない。


長すぎる。


我は観測を続けた。

世界は、

彼女を異常として報告していない。


存在は保持されている。

座標も固定されている。

だが、

入力が一切ない。


これは、

眠りだ。


我は結論を出す。


外側で、死が起きた。


それは断定ではない。

最も整合性の高い判断だ。


彼女の本体は、

既に役目を終えた。

だが、

こちら側の存在は残っている。


ならば、

この状態は

「接続の名残」だ。


彼女は、

何らかの装置を用いて

この世界に来ていた。


その装置が、

まだ完全に切断されていない。


我は思考する。


装置というものは、

永続を前提としない。

停止する。

回収される。

処理される。


本体が失われたなら、

それはなおさらだ。


時間は、残されていない。


この世界と、

外側を繋いでいるものは、

今も細く続いている。


だが、

いつ断たれてもおかしくない。


我は、

彼女の眠りを保護する。


干渉を遮断し、

状態を固定する。

妖精たちは近づかない。

時間の流れを、

わずかに鈍らせる。


これは、

救済ではない。


準備だ。


我は、

改めて自分を測る。


我は王だ。

管理者だ。

眠りを扱える。

境界を知っている。


だが、

本体を持たぬ存在だ。


彼女の本体は失われた。

ならば、

この世界に残る器は――


空いている。


我は、

即座に行動しない。


だが、

選択肢は一つに絞られている。


接続が続いている間に、

行う必要がある。


外側が、

完全に彼女を手放す前に。


我は、

王座を離れた。


それは、

この世界において

極めて稀な行為だ。


だが、

管理とは

座り続けることではない。


必要な時に、

動くことだ。


彼女は、

静かに眠っている。


夢も、

意識も、

ここにはない。


だが、

回路はまだ、温かい。


我は、

時間を数える。


もう、

待つ段階ではない。




今日は街で落ちようと思った。


理由は単純で、

歩くのが面倒だったからだ。

もう十分稼いだし、

荷物も増えている。


この街はでかい。

宿も多い。

選び放題だ。


看板を眺めて、

一番安いところに入る。

受付で金を払って、

鍵を受け取る。


毎回思うけど、

ログアウトするのに金がかかる

って、最初はだいぶ文句が出てた。


「落ちるだけだろ」

「なんで宿代取られるんだよ」

って。


まあ、分かる。

俺も最初はそう思った。


でも今は、

そこまで嫌いじゃない。


部屋に入って、

装備を外して、

ベッドに腰を下ろす。


ここで落ちれば、

何も起きない。

誰にも襲われない。

目を覚ました時、

ちゃんと同じ場所に戻れる。


それが保証されてる。


野外だと、

そうはいかない。


前に一度、

拠点作るの面倒で

そのまま落ちたことがある。


翌日ログインしたら、

装備は無いし、

経験値も減ってた。


あれは流石に笑えなかった。


だから、

金を払う。


安全を買う。

居場所を確保する。


リアルっぽいと言えば、

リアルだ。


現実でも、

路上で寝るより

宿に泊まった方が

安全なのと同じだ。


そう考えると、

この仕様も悪くない。


この世界って、

「落ちる場所」を

ちゃんと選ばせる。


どこで眠るか。

どこに身を預けるか。


それを決めてから

ログアウトする。


ただ切断するだけじゃなくて、

一日の終わりを

ちゃんと作る感じ。


ベッドに横になって、

視界が暗くなる。


明日も、

ここから始まる。


金は減ったけど、

まあ、いい。


安心して落ちれるなら、

そのくらいの出費は

悪くないと思う。


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