第九話 本体への欲求
我はルゥメア。
幻精王である。
欲求というものは、
突然生まれるものではない。
多くは、
理解の遅延として現れる。
少女の言葉が、
我の中で反復されている。
本体。
外側。
仮初。
もし、
外側が本体であるなら。
この世界は、
彼らにとっての補助であるなら。
我には、本体が無い。
その事実は、
これまで問題ではなかった。
王であることに、
不足はなかったからだ。
だが今は違う。
我は、
帰属という概念を知った。
生まれる場所と、
帰る場所の差を知った。
ならば、
我にも本体が必要ではないか。
それは、
羨望ではない。
模倣でもない。
対称性の要求だ。
しばらくして、
我は少女に声をかけた。
いつもの場所。
森の段差。
妖精たちが距離を取る空間。
「先日」
我は、
余分な言葉を削った。
「死ぬ、と言っていたな」
少女は、
少し考えるそぶりを見せてから、
肩をすくめた。
「うん。
まあ、そうなると思う」
重さはない。
事実を置く声音だ。
「そうした場合」
我は続ける。
「お前は、どうなる」
少女は、
困ったように笑った。
「どう、って言われてもなあ」
少し間を置いて、
軽く答える。
「ログアウトしてるだけ、
じゃないかな」
続けて、
付け足す。
「だから、
眠ってる感じだと思うよ」
眠り。
その言葉は、
我の管轄に近い。
「データは残るし。
キャラも消えないし」
少女は、
特別なことを言っているつもりはない。
だが我は、
そこに構造を見た。
操作が止まる。
だが、存在は残る。
入力が無いだけの状態。
それは――
本体と仮初が、
一時的に切り離される状態だ。
我は、
即座に結論を出さなかった。
王とは、
思いつきを実行する者ではない。
だが、
可能性は整理する。
もし、
彼女の言う通りなら。
外側で死が起きても、
こちらでは眠りとして処理される。
ならば、
この世界に残る存在は。
本体を失った器だ。
我は、
静かに計算する。
我の管轄には、
眠りを保護する手段がある。
意識を凍結し、
干渉を遮断し、
時間を停止させる技法。
そして、
彼女はプレイヤーだ。
NPCが持ちえぬ、
移動の権能を持つ。
帰還。
転移。
それらは、
座標を越える力。
我は、
まだ何も言わない。
提案もしない。
説明もしない。
ただ、
一つだけ確かだ。
我は、
本体を得たい。
それは、
この世界を捨てることではない。
この世界に、
帰属を与えるための準備だ。
少女は、
変わらず森に居る。
我は、
変わらず王座に座る。
だが、
思考は動いている。
眠りは、
終わりではない。
管理可能な状態だ。
ならば――
選択肢は、
既に揃っている。
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