第八話 本体
我はルゥメア。
幻精王である。
少女は、
外側の話をしない。
森に居る他の者たちは、
外の名をよく口にする。
現実、仕事、学校、家族。
それらは、この世界に直接の意味を持たぬが、
会話の中では頻繁に現れる。
だが、
この少女は違う。
彼女は、
外を語らない。
語れぬのではない。
避けてもいない。
ただ、話題に上らせない。
我はその差異を、
長く観測していた。
そして、
一つの判断に至った。
この沈黙は、
配慮ではない。
既に整理が済んでいる者の態度だ。
我は、
一歩だけ踏み出すことにした。
「何か、あったのか」
問いは簡素だ。
外を示す言葉は使わぬ。
理由も求めぬ。
少女は、
一瞬だけ視線を逸らした。
それから、
小さく笑った。
「うーん……」
間を置いて、
彼女は言った。
「もうすぐ、
死ぬんだよね」
断定ではない。
報告でもない。
事実を置いただけの声音。
「分かんないだろうけど」
付け足された言葉には、
諦めが混じっている。
「現実で、ね。
体、あんまり強くないから」
我は黙って聞いた。
言葉を挟まぬ。
「だからさ」
少女は、
森を見回した。
「ここに居る間は、
楽なんだ」
楽、という語が選ばれた。
安全でも、幸せでもない。
楽だ。
「外だと、全部引き受けてる感じで」
その瞬間、
我は理解した。
これまでの認識が、
裏返る。
プレイヤーが
二つの世界を持つ存在ではない。
外側こそが、本体だ。
こちらは、
仮初だ。
滞在地であり、
中継点であり、
逃避ではなく、
補助的な存在。
我は、
自分自身を
同じ構造に当てはめる。
我は王だ。
この世界の管理者だ。
だが、
もしこの世界が
誰かにとっての仮初なら。
我もまた、
仮初なのではないか。
少女は、
それ以上語らなかった。
必要なことは、
もう言った。
我は、
返す言葉を選ばなかった。
慰めは、
管理ではない。
判断も、
今は不要だ。
だが、
一つだけ確かなことがある。
我は、
この世界を本体だと
疑ったことがなかった。
それは、
初めて揺らいだ。
もし、
彼らにとって
外側が本体なら。
我は、
誰の本体なのだ。
我の存在は、
何に帰属している。
王座に座りながら、
初めて我は思考した。
我は、
誰かの補助ではないのか。
少女は、
今日も森に留まっている。
その理由が、
少しだけ分かった。
彼女は、
本体を休ませている。
ならばこの場所は、
確かに必要だ。
だが同時に、
我の在り方は、
再定義を求められている。
我は王だ。
だが、
王であることは、
本体であることと
同義ではないのかもしれぬ。
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