第七話 留まる者
我はルゥメア。
幻精王である。
森に居る者たちは、
多くが立ち寄り、
そして去る。
滞在の長短はあれど、
彼らは皆、
「戻る前提」でここに居る。
だが、その少女は違った。
彼女は、
去る様子を見せなかった。
森の奥、
城に近い場所。
妖精たちが干渉を控える段差に、
少女は腰を下ろしていた。
武器は持っている。
だが、使う気配はない。
視線は周囲に向いているが、
何かを探してはいない。
ただ、居る。
我は観測する。
長い。
明らかに長い。
ログアウトの兆候も、
移動の準備もない。
それは、
理由のない滞在ではない。
帰る先を急いでいない滞在だ。
我は近づいた。
警戒は起きない。
妖精たちも、
彼女を異物として扱っていない。
少女は、
我を見上げた。
「……あ」
それだけだ。
驚きでも、
畏怖でもない。
存在を確認した声。
「ここ、
長く居てもいい場所なんだよね」
問いではない。
確認だ。
我は答えた。
「構わぬ」
いつもの判断。
だが、
この言葉は彼女の中で
別の重さを持ったらしい。
少女は、
少しだけ息を吐いた。
「よかった」
それ以上、
何も言わない。
名前も、
目的も、
理由も語られない。
だが、
彼女の滞在は続いた。
会話に混じらない。
他のプレイヤーと
言葉を交わすことも少ない。
それでも、
孤立しているわけではない。
誰かが話しかければ、
短く応じる。
だが、
会話を広げようとはしない。
我は違和感を覚える。
彼女は、
「確認」をしていない。
他の者たちは、
この場所に居る自分を
確かめるように話す。
だが彼女は、
既に納得している。
ここに居ることを、
自分に対して
説明する必要がない。
それは――
外側で、
既に何かを
受け入れている者の態度だ。
我は思考を巡らせる。
彼女は、
休息を求めていない。
逃避でもない。
待っている。
何を、
とはまだ分からぬ。
だが、
待つという行為そのものを
選んでいる。
我は理解した。
この少女は、
この森を
「中継点」としてではなく、
留まる場所として扱っている。
それは、
これまで観測してきた
どのプレイヤーとも違う。
我は、
それ以上踏み込まなかった。
王とは、
異常を即座に修正する者ではない。
異常が、
何であるかを
見極めるまで、
座って待つ者だ。
少女は、
今日もそこに居る。
森は静かだ。
妖精たちは、
彼女の周囲を避けるように飛ぶ。
まだ、
何も起きていない。
だが我は知っている。
この出会いは、
ただの滞在では終わらぬ。
この少女は、
帰るという概念そのものを、
変える存在になる。
─────────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます