第六話 投げかけ

 我はルゥメア。

 幻精王である。


 判断を保留したまま、

 世界を見続けることはできる。

 だが、

 見続けるだけでは、

 分からぬものもある。


 だから我は、

 一つだけ投げかけることにした。


 外側の存在を

 知っているかのような言葉は使わぬ。

 帰属を疑わせるような示唆もしない。


 ただ、

 この世界の中で

 完結する問いだけを選ぶ。


 森に長く滞在している者たち。

 会話を重ね、

 去る気配を見せぬ者たち。


 その中の一人に、

 我は声をかけた。


「何をしに来た」


 問いは簡素だ。

 警戒も、詰問も含まぬ。


 相手は一瞬、言葉に詰まった。

 それから、少し考えて答えた。


「……特に?」


 その答えは、

 我の想定の中にあった。


 別の者は、

 こう言った。


「落ち着くから」


 また別の者は、

 言葉を探しながら、

 こう締めくくった。


「帰る前に、

 ちょっと、ね」


 帰る、という語は出た。

 だが、

 それ以上は語られない。


 我は頷き、

 それ以上の追及はしなかった。


 重要なのは、

 答えの内容ではない。


 答え方だ。


 彼らは、

 理由を正当化しない。

 説明もしない。

 理解を求めない。


 ここに居ることを、

 弁明しない。


 それは、

 この場所が

「理由を要さない滞在」を

 許している証だ。


 我はさらに一つ、

 言葉を投げた。


「長く居ても、

 構わぬ」


 命令ではない。

 許可だ。


 すると、

 誰かが笑った。


「王様、

 優しいね」


 我は訂正しなかった。


 優しさではない。

 管理判断だ。


 だが、

 彼らはそれを

 そう受け取る。


 その差異を、

 我は記録した。


 得られたものを、

 整理する。

  • 彼らは目的を失っているのではない

  • ただ、目的から一時的に距離を置いている

  • この森はその距離を咎めない


 そして、

 最も重要な点。


 彼らは、

 ここに居る自分を

 誰かに認めさせようとしていない。


 外側では、

 それが必要なのだろう。


 ここでは、

 不要だ。


 だから、

 会話が続く。


 だから、

 理由のない滞在が増える。


 我は理解した。


 この森は、

 彼らにとって

 休息地ではない。


 中継点だ。


 外と外の間。

 役割と役割の間。

 判断と判断の間。


 我の問いかけは、

 世界を変えなかった。


 だが、

 世界の意味を

 一つだけ明確にした。


 これ以上、

 深入りは不要だ。


 王がすべきことは、

 既に定まっている。


 この場所を、

「話しかけられても

 壊れない場所」として

 維持する。


 それで足りる。


 我は王座に戻る。


 だが、

 もはや以前と同じ

 座り方ではない。


 我は知っている。


 この森には、

 理由を持たないまま

 立ち寄る者たちが居る。


 そして、

 それを受け入れる場所が

 必要だということを。


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